Chocoholic 〜チョコ一粒で、割といろいろがんばります〜

明日葉

文字の大きさ
上 下
43 / 49

甘い

しおりを挟む
 ローランドは身を任せるようにリラが自分の腕の中で力を抜いたのを感じ、どうしようもなく嬉しくなる。いつも身を固くしていた人に身を委ねられ、そのことがこんなにも嬉しいものなのかと驚き呆れるけれど。
 思わず腕に力がこもり、苦しげに身動ぎされる。


 少し体を離し、大きな手をリラの後頭部に添えて自分と目が合うようにする。
 戸惑った目を覗き込むローランドの目には熱が籠もっていて。その熱に当てられたようにリラが少し体を硬らせるのが伝わってくるのだけれど。
 真っ直ぐに目を覗き込んだまま、ローランドはリラと額を合わせた。

「リラ」


 少し掠れた声にリラの視線は戸惑ったように泳ぐ。けれど、後頭部を押さえ込まれ、至近距離で覗き込まれれば視線を外すことはできなくて。


「キスしたい」




 息を飲んだのがわかった。
 今まで、何も言わずに勝手に、蹂躙するようにローランドからキスをされたことはあった。魔力譲渡かと思おうとしたのに、違うとただされたりもした。
 ただ、乞うように、その熱を告げられたことはなくて。
 お互いに望んでしたいといやでも告げてくるその声と視線に、リラは言葉を失って。
 許さない、と言うように背中に添えられたローランドの手が促すように撫でていく。


「俺と触れ合うのは、嫌か?」


 反射的に、首を振る。押さえられているから僅かな動きになるけれど。
 緊張するし、どうしていいかわからない。でも、嫌ではない。どきどきして、ふわふわする。思考回路が解けるようで、まともに考えることを強引にやめろと言われているようで落ち着かないけれど、そこに身を委ねたい気もするのだ。でも、それも怖い。


 多分、リラは自分を今追い込んでいるこの、致死量の色気をだだ漏れにしている美しい騎士団副団長を好もしく思っている。もっと言うなら、自分でもさっさと素直にその手を取ってしまえと思っている。
 でも、怖いのだ。この人が惹かれるような自分の魅力が自分でもわからない。からかわれているのではないかと思ってしまう。、手を伸ばしたら離れていってしまうのではないかと。どうしてそんな言葉を信じる気になれたのと笑われるのではないかと。
 そんな風に思うこと自体が、この人が真剣に言ってくれているのであればあるほど失礼なのだとわかっているのに。



「リラ」


 思考の海に潜り込みそうなリラを呼ぶ。


「余計なことは考えるな。理屈じゃなくて、感情で答えろ。キスしていいか?」





 後頭部に手を添えているからわかった程度の微かな頷き。


 ローランドは、指先から伝わるその動きを頭で認識する前に、額を合わせたままの顔を僅かに動かし、さらうようにリラの唇に触れるだけのキスをする。
 少しだけ唇を離して、思わず笑みが溢れる。幸せすぎて、心臓が止まりそうだ。でもここで心臓が止まるなんて、勿体なさすぎて死にきれない。

「魔力譲渡じゃないからな?」
「ん」
「やっと、一緒にキスができた」

 啄むようなキスの合間に、嬉しげな声が囁くけれど、その息遣いも至近距離に感じて、リラの思考を蕩していく。
 一緒にキス。
 確かに今までは、一方的なキス。
 自分でも同意したキスは、やっぱり恥ずかしいけれど、でも苦しいくらいに、嬉しいようなむずむずした気持ちが湧いてくる。

 逞しい腕に支えられ、抱き寄せられているけれど、ふわふわとしていく体が不安で、恐る恐る手を伸ばしてローランドの腰のあたりの服を掴む。大きな体は、手を回してみようと思えばなおさらその逞しさがわかって、なおのこと脳味噌が沸騰しそうだ。


 逃げるのではなく、自分に掴まったことに気づけば、ローランドはなお嬉しくて細い体を引き寄せ、背中に回した手をまさぐるように本能的に動かしてしまう。
 緊張するのが伝わるのを宥めるように長めのキスをして、顔を見たいと少し離れれば、思いがけず、追いかけてきたリラの唇が触れるだけのキスをローランドに与える。
 触れて離れていくのを追いかけ、耐えきれずにローランドは舌を割り込ませ、本能的に咄嗟に逃げを打つリラの舌をからめ取り、こすり合わせる。

 鼻から抜けていく息と一緒に漏れる甘い声と、先ほど食べたチョコレートで甘い口の中に、酔いそうになる。
 抱き寄せたことで当たる胸の膨らみに触れたい、このまますぐ側にある寝台に運んで組み敷いてしまいたい。



 その欲を抑えるのに、強引に理性を引き摺り出して、リラの唇を解放する。

 新鮮な空気に大きく息をつきながら、体から力が抜けた様子のリラを見て、名残惜しく耳を食む。


「これ以上は、また今度だ」


 耳に流し込まれた声に、リラの肌が粟立つ。

 これ以上は、リラの家族からきちんと了承を得てから。リラからも、キスだけではない許しを得てから。いや、リラは素直に頷くとは思えないからと苦笑いになれば、少し冷静さも戻ってきた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...