28 / 49
あなたを救えるのなら
しおりを挟む
スィミリアは顔を歪め、狂気に近い光を目に宿していた。けれど彼女の怖さは、狂気の中にいるわけではないということ。至って、正気なのだ。
始まりはなんだったのだろう。
伯爵家に生まれて、仲が良いわけではないが両親がいて、兄がいて。いつも、褒められていた。褒められるのに、最後に落とされる。でもね、少し、足りないのだ、と。
完全に、何もかも認められたくて、誰よりも愛されたくて。
愛されていると、誰かが自分の味方であると感じるためには、誰かが仲間から外れているのが一番、わかりやすかった。誰かを否定することが分かりやすかった。
一代限りの爵位もち。そんな家柄は、貴族の中でも下位に思えて、それに、ぼんやりと数ばかり多い兄弟や先に知り合っただけの貴族の幼なじみに助けられて何でもどうにかしてもらっているようなのが、許せなかった。
それなのに、堪える風もなく。苛立ちはどんどん増して。
呼びに行かせたリラはその日、仕事に出ていなかった。
翌日も、行かせた。一日経った分、扉の向こうはひどいことになっているだろう。生きているだろうかと思うが、音がするのだから、生きている。
大きな屋敷の遠く、人の動く気配と、無駄に大きな声が、その時がきたと、スィミリアに伝える。
外から鍵を開け、スィミリアが扉を開ければ、悶え、苦しみ回った結果だろう。部屋の中は惨憺たる有様で、大きな寝台からもがき苦しんで床に転げた、見目麗しい男。
痩せ細ってもその美しさが衰えないことに苛立ちを覚える。
「旦那様、強情をはらずに。早くその熱をおさめなければ、精神が壊れ、体ももちません」
もはや、声も出ない様子で、拒絶の意思を瞳に込めて睨まれる。
それでも、抵抗すらできない男に、スィミリアは捕食者の笑みを慈悲深く浮かべ、手を伸ばす。
そっと触れれば、反射で身を震わせる。ぞくぞくとするその色気のある男の表情に、スィミリアの方が、興奮を覚えた。この部屋に残る香りのせいもあるのかもしれないが、そもそもスィミリアには耐性がついている。
少量ずつ、飲ませ続け、嗅がせ続けた媚薬。
少量でも影響はあるはずなのに、この男は全くその素振りを見せなかった。身に蓄積されていったそれは、どれほどにこの男を蝕んでいるのか。
触れたいと、衝動は強くなるばかりであるはずなのに、冷え切った男の眼差しに、スィミリアはこのくだらない日々に愉快な終止符を打つことを決め、薬の量を一気に増やした。
明らかに熱はこもり、危険なほどであるのに、男の体は何の反応も見せない。
あの女に、見せつけてやろうかとも思ったけれど、と、それがどれほど残酷な仕打ちかを心得ながら、そこに、爪を立て力任せに握りつけた。
「信じられない男。この状況でもどうにもならないほどの不能とは。あんなことに傷つくなんて、どれだけ脆いの」
罵る言葉に、苦痛と羞恥で歪む美しい顔を見下ろせば、溜飲は下がる。
確かな気配を背後に感じながら、スィミリアは告げる。
「安心しなさいな。あんたになんて、わたしは触れられてもいないわ。あんたがリラの名を呼びながらわたしを犯したといえば、責任を取ってわたしを妻にすると踏んだだけ。あの日あんたが散らしたのは、あんたが名を呼んだ、リラよ」
「な、んだと??」
まだ、会話ができるほどに頭が動いているのかと思えば、告げている内容を思いスィミリアは微笑む。
「だって、わたしじゃ破瓜の証がないもの。だからそこは、あんたの願いを叶えてあげたの。薬で眠って意識のないリラを相手に、ね」
それまで光をなくしていたアレンディオの目は、残忍に微笑む妻の背後に、懐かしい顔を見つける。
驚きに目を見開いたその顔に、絶望した。
「リラ…!!」
仕事場に駆け込んできた見知らぬ侍女の話を聞けばリラは一も二もなく、飛び出した。久しぶりの出勤なのに早退だけれど。
そして、耳にした話。
わたしが、アレンディオの人生をめちゃくちゃにしてしまった。
そう思えば、血の気がひいた。
ひどい状況の部屋の中。身動きもままならないアレンディオは、心身ともに、スィミリアに辱められ、痛めつけられている。
名を叫び、意識が遠のいた様子のアレンに、リラは慌てて駆け寄った。
部屋を出て、中からは開けられない部屋の鍵を、しっかりとスィミリアが外から閉めたのを、リラは気づかなかったけれど、気付いたとしてもそんなことはどうでもよかった。
毒をもられたあの時から、いや、その前から少しずつ、薬や毒の知識は得るようにしていた。周囲に迷惑をかけないように。
アレンの状況は、すぐに分かったし、それが精神的にも身体的にも危険な状態であることも、分かった。
痩せ衰えていてもリラには床に伏すアレンを抱えて寝台にあげることはできなくて。その頭を抱え、懐かしい柔らかい髪を撫でながら、この大事な大事な年下の幼なじみを助ける方法を考える。
彼はきっと、そのまま言ったって受け入れない。死を、選択しかねない。
スィミリアの話は、リラにとってもショックなことではあったけれど、そんな気は、していたから。自分の体だから。
ただ、ローランドの手を取る未来がなくなったな、と思えば哀しい、という気持ちが湧いて、自嘲気味に笑みが浮かんだ。勝手な話だ。この期に及んで、あの方のそばにいるのを楽しく思っていたと気づいて惜しむなんて。
確かな関係にさっさと進まなかったからこそできる選択。そうしていたとしても、きっと選んだけれど。
すでに手遅れである恐怖に震えそうになるのを抑えながらリラは久しぶりの、その名前を呼ぶ。
「アレン…アレン?」
長い睫毛が震え、美しい青い目が向けられる。肌の張りが失われ、顔色が悪くとも、痩せ衰えていようとも、その目の美しさが変わらないことが、彼が昔と変わらない心を持っていることを示しているようで。
リラは、微笑んで、演じる。
「旦那様?こんなところで横になって、どうしました?」
アレンは驚きに目を見開いた。
いつも見る。違う。みたいと願う夢か、と。せめて夢だけでも幸せであればと願い、そんなことを願う己を厭うた。
幼い頃から憧れた、手をこれから伸ばそうとしていた人が、旦那様と呼び、微笑みかけている。
優しい手の感触に、思わず頬をすり寄せ、その瞬間、体を恐ろしいほどの苦痛が襲う。抑えきれない衝動はもはや、苦痛にしかなっていなかった。
夢だと思ったことが箍を外したのか。その痩せた腕にこれほどの力がと思うほどに強く、身をかがめて自分を覗き込む幼なじみの細い体を抱き寄せた。
自然に胸に体を預ける柔らかい体に、アレンの頭は沸騰した。
「アレン?もし動けたら、せめて寝台に上がりましょう?あなたの体が痛そう」
気遣わしげに見上げる眼差しに、アレンは夢中で口付けた。
あれほどに、何の反応も示さず、そのために自身で熱を発散することもできずに心身の危険に追いやられたアレンの体は、呆れるほど単純に、反応を示していた。
始まりはなんだったのだろう。
伯爵家に生まれて、仲が良いわけではないが両親がいて、兄がいて。いつも、褒められていた。褒められるのに、最後に落とされる。でもね、少し、足りないのだ、と。
完全に、何もかも認められたくて、誰よりも愛されたくて。
愛されていると、誰かが自分の味方であると感じるためには、誰かが仲間から外れているのが一番、わかりやすかった。誰かを否定することが分かりやすかった。
一代限りの爵位もち。そんな家柄は、貴族の中でも下位に思えて、それに、ぼんやりと数ばかり多い兄弟や先に知り合っただけの貴族の幼なじみに助けられて何でもどうにかしてもらっているようなのが、許せなかった。
それなのに、堪える風もなく。苛立ちはどんどん増して。
呼びに行かせたリラはその日、仕事に出ていなかった。
翌日も、行かせた。一日経った分、扉の向こうはひどいことになっているだろう。生きているだろうかと思うが、音がするのだから、生きている。
大きな屋敷の遠く、人の動く気配と、無駄に大きな声が、その時がきたと、スィミリアに伝える。
外から鍵を開け、スィミリアが扉を開ければ、悶え、苦しみ回った結果だろう。部屋の中は惨憺たる有様で、大きな寝台からもがき苦しんで床に転げた、見目麗しい男。
痩せ細ってもその美しさが衰えないことに苛立ちを覚える。
「旦那様、強情をはらずに。早くその熱をおさめなければ、精神が壊れ、体ももちません」
もはや、声も出ない様子で、拒絶の意思を瞳に込めて睨まれる。
それでも、抵抗すらできない男に、スィミリアは捕食者の笑みを慈悲深く浮かべ、手を伸ばす。
そっと触れれば、反射で身を震わせる。ぞくぞくとするその色気のある男の表情に、スィミリアの方が、興奮を覚えた。この部屋に残る香りのせいもあるのかもしれないが、そもそもスィミリアには耐性がついている。
少量ずつ、飲ませ続け、嗅がせ続けた媚薬。
少量でも影響はあるはずなのに、この男は全くその素振りを見せなかった。身に蓄積されていったそれは、どれほどにこの男を蝕んでいるのか。
触れたいと、衝動は強くなるばかりであるはずなのに、冷え切った男の眼差しに、スィミリアはこのくだらない日々に愉快な終止符を打つことを決め、薬の量を一気に増やした。
明らかに熱はこもり、危険なほどであるのに、男の体は何の反応も見せない。
あの女に、見せつけてやろうかとも思ったけれど、と、それがどれほど残酷な仕打ちかを心得ながら、そこに、爪を立て力任せに握りつけた。
「信じられない男。この状況でもどうにもならないほどの不能とは。あんなことに傷つくなんて、どれだけ脆いの」
罵る言葉に、苦痛と羞恥で歪む美しい顔を見下ろせば、溜飲は下がる。
確かな気配を背後に感じながら、スィミリアは告げる。
「安心しなさいな。あんたになんて、わたしは触れられてもいないわ。あんたがリラの名を呼びながらわたしを犯したといえば、責任を取ってわたしを妻にすると踏んだだけ。あの日あんたが散らしたのは、あんたが名を呼んだ、リラよ」
「な、んだと??」
まだ、会話ができるほどに頭が動いているのかと思えば、告げている内容を思いスィミリアは微笑む。
「だって、わたしじゃ破瓜の証がないもの。だからそこは、あんたの願いを叶えてあげたの。薬で眠って意識のないリラを相手に、ね」
それまで光をなくしていたアレンディオの目は、残忍に微笑む妻の背後に、懐かしい顔を見つける。
驚きに目を見開いたその顔に、絶望した。
「リラ…!!」
仕事場に駆け込んできた見知らぬ侍女の話を聞けばリラは一も二もなく、飛び出した。久しぶりの出勤なのに早退だけれど。
そして、耳にした話。
わたしが、アレンディオの人生をめちゃくちゃにしてしまった。
そう思えば、血の気がひいた。
ひどい状況の部屋の中。身動きもままならないアレンディオは、心身ともに、スィミリアに辱められ、痛めつけられている。
名を叫び、意識が遠のいた様子のアレンに、リラは慌てて駆け寄った。
部屋を出て、中からは開けられない部屋の鍵を、しっかりとスィミリアが外から閉めたのを、リラは気づかなかったけれど、気付いたとしてもそんなことはどうでもよかった。
毒をもられたあの時から、いや、その前から少しずつ、薬や毒の知識は得るようにしていた。周囲に迷惑をかけないように。
アレンの状況は、すぐに分かったし、それが精神的にも身体的にも危険な状態であることも、分かった。
痩せ衰えていてもリラには床に伏すアレンを抱えて寝台にあげることはできなくて。その頭を抱え、懐かしい柔らかい髪を撫でながら、この大事な大事な年下の幼なじみを助ける方法を考える。
彼はきっと、そのまま言ったって受け入れない。死を、選択しかねない。
スィミリアの話は、リラにとってもショックなことではあったけれど、そんな気は、していたから。自分の体だから。
ただ、ローランドの手を取る未来がなくなったな、と思えば哀しい、という気持ちが湧いて、自嘲気味に笑みが浮かんだ。勝手な話だ。この期に及んで、あの方のそばにいるのを楽しく思っていたと気づいて惜しむなんて。
確かな関係にさっさと進まなかったからこそできる選択。そうしていたとしても、きっと選んだけれど。
すでに手遅れである恐怖に震えそうになるのを抑えながらリラは久しぶりの、その名前を呼ぶ。
「アレン…アレン?」
長い睫毛が震え、美しい青い目が向けられる。肌の張りが失われ、顔色が悪くとも、痩せ衰えていようとも、その目の美しさが変わらないことが、彼が昔と変わらない心を持っていることを示しているようで。
リラは、微笑んで、演じる。
「旦那様?こんなところで横になって、どうしました?」
アレンは驚きに目を見開いた。
いつも見る。違う。みたいと願う夢か、と。せめて夢だけでも幸せであればと願い、そんなことを願う己を厭うた。
幼い頃から憧れた、手をこれから伸ばそうとしていた人が、旦那様と呼び、微笑みかけている。
優しい手の感触に、思わず頬をすり寄せ、その瞬間、体を恐ろしいほどの苦痛が襲う。抑えきれない衝動はもはや、苦痛にしかなっていなかった。
夢だと思ったことが箍を外したのか。その痩せた腕にこれほどの力がと思うほどに強く、身をかがめて自分を覗き込む幼なじみの細い体を抱き寄せた。
自然に胸に体を預ける柔らかい体に、アレンの頭は沸騰した。
「アレン?もし動けたら、せめて寝台に上がりましょう?あなたの体が痛そう」
気遣わしげに見上げる眼差しに、アレンは夢中で口付けた。
あれほどに、何の反応も示さず、そのために自身で熱を発散することもできずに心身の危険に追いやられたアレンの体は、呆れるほど単純に、反応を示していた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。


義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる