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王家の秘密
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カナーンシア国の現国王は、決して暗愚ではない。むしろ、賢王とされ、広く有能な人材を登用し、安定した治世を築いている。
ただ、残念なことに、誰もがなぜそのようなことを、と耳を疑う決断をしたことがあった。
後から思えばそれは、国王の好色が覆いきれずに出てしまった、その一言に尽きるのだろう。
当時、王には4人の王子と、2人の姫がいた。正妃と、側妃が2人。妃たちの仲は、今現在に至るまで、非常に良好なまま。子どもたちも仲が良く、時にそんな妃たちが揃って国王を叱り飛ばす姿も見られるほどに、良好な関係で。
子に恵まれないわけではなく、むしろ後継に憂いはない状態だった。王子も複数おり、かと言って後継問題が起こるような余地もないほどの良好な関係。それぞれの妃の縁戚も、弁えた者ばかり。
だからなぜ、そんなことを言い出したのかと言えば。
好色な。と、正妃が吐き捨てるように睨み据えた、あの一言に、畢竟尽きてしまうのだろう。
側妃の1人は、ファーレイ公爵の縁者で。さらにその側妃の遠縁に、ほぼ縁などないと言えるほどの遠い親類に、シェフィールド家の妻がいた。遠縁であるはずだが、よく似た2人は時折王宮にシェフィールド夫人を招いてお茶を楽しむほどに親しく、そして、なぜか国王が目を止めた。
そして国王が何をしたか。
言葉にするのも憚られること。
ファーレイ公爵の縁者である側妃は、第四王子であるエリアスの母で。子は、その1人だった。子をなし難い体なのだろうと。
それが、エリアスがリラを気遣う…という言葉では済まないほどに構いたがる理由。
今、国には正妃と側妃は1人しかいない。エリアスの母は、病で亡くなった。それは誠に病で、決して何かの陰謀があったとか、そういうことではない。亡くなった際の国王の嘆きも大きかった。
そして、側妃とよく似たシェフィールド夫人も、亡くなった。シェフィールド家の末弟、リースが生まれて1年余り後に。
リースは、決して王宮に近づこうとはしない。しなかった。
シェフィールドの兄弟をそばに置きたがる理由も、逃すまいとする理由も、その優秀さはもちろんのこと、それだけではない。
王家の秘密が漏れることを恐れているわけではない。
残念ながら、罪悪感でもない。そういうのを持たないらしいのは、王者たる所以なのか。
「あんな事故物件みたいな方と、結婚するの?」
と、可愛い顔で心底不思議そうに尋ねられた、王太子の側妃はリラの2番目の姉で。それを伝え聞いた王太子が苦虫を噛み潰したような顔でがっくりと肩を落とし、ご兄弟が揃って腹を抱えて笑ったというのは、国王も知らない話だ。
「それで、エリカ様。なんと答えたんですの?」
王太子の正妃に問われれば、エリカはリラとよく似た表情で、にっこりと笑った。
「お人柄は、問題ないから大丈夫よ?と」
「…人柄は認めてもらえてよかったよ」
すっかり気落ちした様子の王太子に、その母がさらににっこりと笑みを向ける。
「お前の父と同じような行いはしないように。愛想を尽かされるでは、すみませんよ」
「しませんよっ。そんな馬鹿なこと」
というか、あんなことを思いつく発想が、意味不明すぎると、頭を抱え込む王太子を、その妃たちはにこにこと笑って眺める。
口止めのために、輿入れしたのではない。王太子と、王太子妃の2人で口説き落としたのだ。
その王家が怒りに震えたのは、その数年後のこと。
シェフィールド家の娘に毒を仕込んだ者がおり、それを助けて、末息子が倒れた、と。
ただ、残念なことに、誰もがなぜそのようなことを、と耳を疑う決断をしたことがあった。
後から思えばそれは、国王の好色が覆いきれずに出てしまった、その一言に尽きるのだろう。
当時、王には4人の王子と、2人の姫がいた。正妃と、側妃が2人。妃たちの仲は、今現在に至るまで、非常に良好なまま。子どもたちも仲が良く、時にそんな妃たちが揃って国王を叱り飛ばす姿も見られるほどに、良好な関係で。
子に恵まれないわけではなく、むしろ後継に憂いはない状態だった。王子も複数おり、かと言って後継問題が起こるような余地もないほどの良好な関係。それぞれの妃の縁戚も、弁えた者ばかり。
だからなぜ、そんなことを言い出したのかと言えば。
好色な。と、正妃が吐き捨てるように睨み据えた、あの一言に、畢竟尽きてしまうのだろう。
側妃の1人は、ファーレイ公爵の縁者で。さらにその側妃の遠縁に、ほぼ縁などないと言えるほどの遠い親類に、シェフィールド家の妻がいた。遠縁であるはずだが、よく似た2人は時折王宮にシェフィールド夫人を招いてお茶を楽しむほどに親しく、そして、なぜか国王が目を止めた。
そして国王が何をしたか。
言葉にするのも憚られること。
ファーレイ公爵の縁者である側妃は、第四王子であるエリアスの母で。子は、その1人だった。子をなし難い体なのだろうと。
それが、エリアスがリラを気遣う…という言葉では済まないほどに構いたがる理由。
今、国には正妃と側妃は1人しかいない。エリアスの母は、病で亡くなった。それは誠に病で、決して何かの陰謀があったとか、そういうことではない。亡くなった際の国王の嘆きも大きかった。
そして、側妃とよく似たシェフィールド夫人も、亡くなった。シェフィールド家の末弟、リースが生まれて1年余り後に。
リースは、決して王宮に近づこうとはしない。しなかった。
シェフィールドの兄弟をそばに置きたがる理由も、逃すまいとする理由も、その優秀さはもちろんのこと、それだけではない。
王家の秘密が漏れることを恐れているわけではない。
残念ながら、罪悪感でもない。そういうのを持たないらしいのは、王者たる所以なのか。
「あんな事故物件みたいな方と、結婚するの?」
と、可愛い顔で心底不思議そうに尋ねられた、王太子の側妃はリラの2番目の姉で。それを伝え聞いた王太子が苦虫を噛み潰したような顔でがっくりと肩を落とし、ご兄弟が揃って腹を抱えて笑ったというのは、国王も知らない話だ。
「それで、エリカ様。なんと答えたんですの?」
王太子の正妃に問われれば、エリカはリラとよく似た表情で、にっこりと笑った。
「お人柄は、問題ないから大丈夫よ?と」
「…人柄は認めてもらえてよかったよ」
すっかり気落ちした様子の王太子に、その母がさらににっこりと笑みを向ける。
「お前の父と同じような行いはしないように。愛想を尽かされるでは、すみませんよ」
「しませんよっ。そんな馬鹿なこと」
というか、あんなことを思いつく発想が、意味不明すぎると、頭を抱え込む王太子を、その妃たちはにこにこと笑って眺める。
口止めのために、輿入れしたのではない。王太子と、王太子妃の2人で口説き落としたのだ。
その王家が怒りに震えたのは、その数年後のこと。
シェフィールド家の娘に毒を仕込んだ者がおり、それを助けて、末息子が倒れた、と。
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