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しおりを挟むとにかく、甘やかしたい。甘えて欲しい。
琥太狼はそう思うのに、同時に自分を無条件に受け入れるように許すように抱きしめる凪瑚の腕に安堵して、堪えきれない熱を注いでしまう。
くったりとした凪瑚に寝るか風呂入るかと聞けば、寝ぼけたように少し枯れた声で、おふろ、と言うから。素直につかまるのは、先ほどまでの余韻と、おそらく本当に頭が回っていなくて。でもそんな甘えたな仕草が愛おしくて子供をあやすように抱き上げて肩にもたれた頭に頬を寄せて浴室に向かう。
こんなことを繰り返す間に、この照れ屋な幼馴染も慣れてくるのだろうか。嬉しいような、それはそれで惜しいような複雑な気分だ。照れている様子も可愛くて仕方ない。
シャワーで情事の残滓を流して、抱えるように座って髪を洗うと、心地良さそうに身を任せてくる。
「琥太狼くんの、狼、の字は、お父さんの方の姓のルードルフからなの?」
ぽやぽやとした口調で凪瑚に聞かれて、琥太狼はふ、と笑ってしまう。言ってる内容はずいぶんしっかりしているのに、多分、気になっていたことを口にしているだけで答えても覚えているか怪しいくらいだ。
「そうだよ。母さん、会うつもりなかったから。おかげでファーストネームにもファミリーネームにも狼が入ってる」
「ふふ」
含み笑いは楽しげで、何を思っているのか、不意に凪瑚がまだ泡だらけの頭を琥太狼の胸にすり寄せた。驚いて慌てて受け止めながら、無邪気だけど、可愛いけど、やめて欲しい、と琥太狼は大きく呼吸する。凪瑚に無理をさせたと納めたけど、正直まだまだ凪瑚が足りない。付き合わせたら、本当に凪瑚を壊してしまいそうだ。
「凪瑚。眠い?」
「眠い」
「もうちょっと頑張って?」
「ん」
また、元気になっている自分に気づかれないようにしながら、寄りかかってしまった凪瑚の髪をながしていく。心地良さそうに目を閉じているけれど、放っておけばそのまま眠ってしまいそうな様子だ。それなのに、とろん、とした目を開けて、凪瑚を抱えるようにして琥太狼が泡立てたボディソープの泡を凪瑚が両手で掬い取っていく。
「どうした?」
「琥太狼くんの背中、ながしてあげる」
「え」
「むこー、向いて」
「…はいはい」
やれやれ、と、自分に体を預けていた凪瑚が転ばないように体を離しながら琥太狼は向きを変える。
向けられた広い背中に、琥太狼が器用に泡立てたソープを両手で広げていき、手で洗う。首の後ろや、肩を撫で、洗うの大変、と思うような広い筋肉質な背中に感動してしまう。
「抱きつきたくなる背中だなぁ」
「っ」
無意識の呟きだろう。琥太狼は聞こえて息を呑んでしまう。
琥太狼の背後で大きなタオルを体に巻いて背中を流していた凪瑚は、その無防備な布一枚に少し安心して、そのまま首に抱きついた。
許される、安心感にホッと息をつく。なんでだろう。会わなかった時間はものすごく長いのに、絶対に大丈夫だと思えてしまう距離感。
嫌がられることはない、と思える。
「凪瑚、こら」
「むー」
むくれた声を出す凪瑚に、琥太狼はたまらず長い腕を背後に回してしがみついている凪瑚の頭を引き寄せ、振り向いて唇を合わせた。そのまま器用に自分の体の向きを変えて凪瑚を自分の膝に座らせた。舌を割り込ませながら、凪瑚がなぜこんなもので安心してしまうのかと心配になるタオルを取り去って、胸を掬い上げる。
そうして引き寄せられた腰が、脈打つ屹立に当たってようやく凪瑚は状況を察して体を引こうとした。許されるわけもなく、下腹にしっかりと押し当てられる。
からめられていた舌が解放されて、少しだけ離れた口が、凪瑚を咎めるように息を吐く。
「凪瑚…煽るな。こんなところで。ゴムもないんだから」
「んっ」
だめだ、と、恥ずかしい、と思うのに、先ほどまでの気持ちよさを思い出して自然とその熱に自分から腰を擦り寄せてしまう。それで、琥太狼が息を飲むのがすこし、物珍しい。いつも余裕で、教え込むように自分に触れるのに。
おずおずと、慣れない様子でそっと、凪瑚の方から琥太狼にキスをする。
驚いた顔の琥太狼が可愛く見えて、高い鼻筋にも唇を当てた。
煽るな、と言っているのにそんなことをした凪瑚が、首にしがみつくから、そのまま、琥太狼は立ち上がる。
2人についた泡をシャワーでざっと流して、大きなバスタオルを脱衣所で乱暴に背中にかけてそのまま凪瑚までくるんで。
結局、また寝室で。
「この、いたずらっ子。風呂にいった意味ないだろうが」
「…」
気まずそうに、でも否定もできずに目を逸らす凪瑚の様子にたまらず、琥太狼はすぐにも受け入れそうな凪瑚のぬかるみを指で探り、それでも大丈夫そうなことを確認してから、痛いほどに主張する自身をそこに埋めていく。
ぴたりとハマる感覚に、大きく息を吐き出して、そのまま、一度押さえて我慢した分、理性が効かなくなっている。
「凪瑚、キスして?」
腰を揺らしながら強請られて、凪瑚は琥太狼の首にしがみついていた腕を少し緩めて首筋から顔を離して、唇を合わせる。
侵入してきた舌の動きと、下から突き上げられる感覚に、どんどんと、翻弄された。
「んぅ」
ぼんやりと目を開けて、凪瑚は記憶をたぐる。
お風呂に入れてもらって、とそのあたりではた、と思い出して恥ずかしくて顔を覆いたくなる。ただ、背後から抱き込まれ、片方の腕は腰に回された腕に押さえられていて、もう片方は指を絡めて繋がれていて動けない。
と、ふと気づく。
(え…??)
違和感に腰を揺らして、すぐ、止まった。
(は…いってる…、え?)
驚いたのと、恥ずかしいのと、どうしていいのか分からないので固まっているところで、その違和感が質量を増す。自分が動いたことで、そして無意識にナカを締め付けてしまっていることは気づかない。
腰に回った手に力が込められて、首筋に柔らかい唇が当てられる。
「凪瑚、起きた?」
「へ、あの」
「ん?」
「えっと、琥太狼君、ずっと起きてたの?」
「今、凪瑚が起こしたんだよ」
言って、琥太狼は少しだけ、腰を押し付ける。
「ん」
小さく控えめに声が出て、凪瑚は慌てて口を閉じるけれど、琥太狼は許してくれない。
「凪瑚、自分で煽ったくせに、先に寝ちゃうんだもん」
それ、寝たのかな…という疑問は口にしない。というか、余裕がない。混乱する頭で、とにかく自由になろうと動こうとするのに、その動きがなおさら琥太狼を刺激していることは分からない。
「まだ、寝ていて大丈夫な時間だよ」
どの口が、と思うようなゆるゆるとした動きを琥太狼の手と腰はしているのに。甘やかすように言われて背中がぴったりと琥太狼の胸に合わさった熱が心地よくて、目が覚めきっていない凪瑚はぼんやりと身を任せてしまう。
なんか、おかしいよね、と思うのに。
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