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しおりを挟む鍵を開けて、先に促されて玄関に入り、背後で閉まる音を聞くのと同時に、凪瑚はぎゅう、と、抱きしめられた。肩口に額を押し付けられる。
「え、なんで」
「…ちょっと待って。今なんか、…いろいろきてる」
「???」
久しぶりに会えたことだとか、だんだん緊張がとけてきて向けられる声とか表情とか、そして、先ほど握ってくれた手の力。いろんなものでこみ上げてくるものを琥太狼は凪瑚を抱きしめながら一旦押さえ込もうとする。逆効果、のような気もするけれど、とにかく触れていないと耐えられないくらいの衝動があって。凪瑚の肩においた額をぐりぐりぐりぐりと擦り付け、首筋や耳の後ろに鼻がかすると、つい、香りを吸い込んでしまう。
くすぐったくて、ちょっと痛いくらいにぐりぐりする様子がなんだか可愛く感じられて、大型犬に戯れられているようで、凪瑚はつい、肩口の琥太狼の頭の方に首を傾げてしまった。
すり
と凪瑚にすり寄られて、ぞわぞわと琥太狼は押さえ込もうとしたものを逆に刺激されて。
それでもなんとか、そのままの勢いでかぶりつきそうになるのを、腕の力を込めてやり過ごした。
「凪瑚…キスしたい」
「ふぇっ」
痛いくらいの腕の力と、掠れた低い声の色気に当てられて腰砕けになりそうな凪瑚は、耳を甘噛みしながら注ぎ込まれた声に間抜けな声が出てしまう。
許可をもらう、までは待てなかった琥太狼は、そのまま、掬い取るように凪瑚の口にかぶりついた。
食べられそうな、噛み付くようなキスに、凪瑚はお腹の奥が切なくなる。
(なにこれ…なにこれ、なにこれ)
知らない、こんなの知らない、と混乱するのに、キスをしながら上向かされて、ほとんど琥太狼に抱えられて自分の足で立てていない凪瑚は琥太狼に体を預けるしかない。
呼吸をするタイミングも分からなくて、苦しくてやっと動かした腕でどこか分からない、触れられる琥太狼の体の部分を叩くと、気づいたように少し、解放してくれる。
「ぷはっ…ん、ぅうう」
「なこ」
背中に回った琥太狼の手が、裾から入り込んだ。体を固くする凪瑚を宥めるように、大きな手がやわやわと凪瑚の体をたどる。
大きな手が、凪瑚の臀部に回って、キスの合間に、琥太狼はほとんど唇を離さずに、至近距離で凪瑚を見つめる。
「凪瑚。こっちじゃなくて」
その手が、凪瑚の下腹に回ってくる。
「こっちに、入らせて」
熱に浮かされたように、凪瑚は頭が回っていない。
ただそれでも、まだ、琥太狼に返事、してないのに、と、とっさに思う。
琥太狼の方は逆に、頭からもうそれは抜け落ちていた。拒絶されることは頭になかったし、想像したくもなかったし、拒否されることにそもそも慣れていない。
長い足が、凪瑚の足を割って太腿で両足の間を刺激される。
「ひ、ぅ」
びりびりと言う気持ちよさと、さっきから感じるお腹の切なさが、その足の刺激で少し満たされて、それがさらに物足りなさを募らせて。
いいも悪いも、返事をする余裕もない。ただしがみつく凪瑚の仕草が、拒絶ではない、と、琥太狼には感じさせてくれて、凪瑚の体を抱き上げると、慌てたように凪瑚が譫言のように「くつ」と呟くから、脱がせてやって、自分も脱いで家に入る。口を脱ぎたい、という意思が、同意、と思えた。
抱き上げられた高さに、反射的に凪瑚は琥太狼の頭にしがみついて、またこのパターン、と思い返す。思い出すと恥ずかしくて顔から火が出そうになるのに、嫌な思い出じゃない。悪いことじゃないと思わせてくれたのは琥太狼だ。不思議なのに。自分なら、付き合っていない人とそんなことをして、しかも初対面の人にあんなはしたないことを頼んでと後から嫌悪に塗れると思っていたのに。
「…凪瑚、なんか他のこと考えてる」
頭にしがみついて固まった凪瑚の気配を敏感に察して、琥太狼は引き戻すようにすぐそこにある凪瑚の鎖骨に舌を這わせる。驚きと、そして驚きとは違う感覚の両方で体をびくりと反応させた凪瑚をそのまま寝室に連れて行った。シャワーを浴びてから、なんて待つ余裕がないとか。がっついているガキみたいだと自分で思うのに、悪くない、とそれを肯定してしまう自分がいる。
大きな、心地よいベッドに下ろされて、そのまま琥太狼に覆いかぶさられる。
今更、ここまできて拒否、をする度胸は、むしろ、ない。流されやすい性格だと自覚しているから、そう言う雰囲気にまずならないように避けて通っていただけに、対処法が全く浮かばない。
拒否するつもりなのか、と自問すれば、そんなつもりの自分が見つけられないことにまた、愕然とする。気持ちよさに負けた?見た目に、こんなイケメンに相手してもらえるチャンス逃すなとでも、本能が言ってる?なんだろう。
ああ、また、余計なことを考えて、ダメだった時の言い訳考えて。自分に逃げ道作ろうとしている。
そんなこと、ぐだぐだやっている間に、ばんざーい、と服を脱がされて、背中のホックが緩んで胸元に湿り気を感じる。
翻弄されて、頭が溶けてしまいそうで。余計なこと、考える余裕なくなってよ、と流し込まれる声に、反射的に足をすり合わせていた。その動きに、琥太狼が嬉しそうに目を細めているのは気付いてしまって、伸ばした手が掴んだ枕で顔を隠した。
「だーめ。顔見たいし。それやったら、キスできない」
言いながら、奪い取られて鼻を甘噛みされて、びっくりして目を見開いた。
熱を孕んだ視線に捕らえられて、目が逸らせない。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
混乱を映した目が泳ぎそうになるのを、口の中をまた蹂躙されて遮られる。
下に伸びてきた手が、この間と同じ着圧スパッツに邪魔されて、でも、それを面白がるようにする、と脱がされた。
「凪瑚、これ脱がしやすくて着てる意味あるの?」
「う、うるさい…ひゃ…ぁん」
「は。可愛い声」
はぁ、と、息を吐きながら、体重が全てはかからないように、琥太狼がぎゅう、と凪瑚を抱きしめて全身が密着する。
下腹にあたる硬い感触に、凪瑚の肩が跳ねるのを、幸せそうに琥太狼はよしよし、と撫でて凪瑚から心地よさを引き出していく。
無意識に揺れる琥太狼の腰が硬いものを凪瑚の体に擦り付ける。
くちゅ
と、水音と、この間は表面に触れるだけだった場所に入り込んでくる太く長い指に、凪瑚の体が身構えるように琥太狼の体にしがみつく。しがみついて浮いた背中に、もう一方の手を潜り込ませて背骨を辿り、触っていない場所があることが許せないと言うように、あちこちに琥太狼は触れていく。
凪瑚の中を探る指は、凪瑚の反応をいちいち記憶していくように辿っていく。怖い、と、凪瑚の体が跳ねた時に漏れた声に、あの夜の凪瑚の言葉を思い出して、屹立にさらに血が集まっていく。
「…ごめ、凪瑚。余裕ない」
「ん」
苦しげな琥太狼の声に、凪瑚は反射で声を出して、それからはた、と思わず手を伸ばす。なんで、そんなことしたのか。
琥太狼の屹立に掠るように触れた瞬間、びくり、と琥太狼の腰がはねた。
「ぉいっ」
「ごめっ」
危ない、と息を吐きながら、予測のつかない凪瑚の動きに面食らう。
凪瑚の手が、ゴムを確認したのかと察して、もー、と、頭を抱えて抱きしめる。
「ちゃんとしてる。…ゴム、しないでされたことでもあるのかよ」
少し苛立った声に、凪瑚の体がぴくり、と動いて。それが琥太狼の声に怯えたのではなく、問いへの肯定だと感じ取れて、琥太狼は腕に力を込めた。
「したいけどっ。しない」
なにそれ、と、凪瑚は腕を伸ばして、琥太狼の首に抱きついた。
少し浮いた腰を抱えて、ぐい、と、押し当てられた熱量に押し出されるように、凪瑚の口から息が吐き出される。それが、琥太狼の耳元にかかって、腰から突き上がる感覚を一度、琥太狼はやり過ごした。
凪瑚の中に入って、ぴたりと体を合わせて。心臓の鼓動が大きすぎて、それで互いの体が揺れる気がする。そんな小さな振動でも、刺激になる。
なんの拍子になのか、きゅ、きゅう、とナカが蠢いてしまって、荒い息で琥太狼はとにかく、凪瑚が馴染むのを耐えて待つ。そこにいるだけで、達してしまいそうなのはあの夜と同じ。
すり、と、甘えるように顔を摺り寄せられる感覚に目を落とすと、熱を孕んだ凪瑚の顔が見上げている。
言葉にするのを恥じらうように、少し体をもじもじとさせる様子に、ゆる、と腰を動かすと、反応があって。それが嬉しくて、優しく、ゆっくり、と必死で琥太狼は自分に言い聞かせるように念じる。
声を我慢して、息を飲んで口を引き結ぶ様子に、口に手を当て、顎を押して開かせる。
「んん、あ、はっ」
出てしまう声を自分で聞いて恥ずかしい、と言うようにいやいやとむずかって、それと一緒にナカがきゅん、と吸い付いてくる。
やだ、怖い、恥ずかしい
譫言のような声を甘やかして宥めて。
甘やかしているのが誰かわかっていると伝えようとするように、しがみついた凪瑚の声が、耳の近くでかすれて響いた。
「こたろ…くん」
「くっ」
堪えきれず見つけた凪瑚のイイトコロを、引き抜いて勢いよく擦り上げると、その感覚のやり過ごし方を知らない凪瑚は身を捩るように、つかまっていた琥太狼の体に縋り付いてくる。
「ふぁ、ぁん」
「なこ…」
好き、と言う、その一言では足りないように感じるのに、それを表す言葉がわからない。
また、こんなに、と、琥太狼はぎり、と奥歯を噛み締めるけれど、抑えきれずに、凪瑚の体を抱きしめた。
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