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しおりを挟む家に、人を入れることはない。
当然、一晩限りの相手なんて、家を知るはずもない。だから、家にそういう準備はない。ゴムはあっても、ローションはない。
「凪瑚」
我ながら声が掠れてるな、と思いながら呼ぶと、不安そうに火照った目が向けられる。
感じるということを知らない、と告白したこの子。怖い、のだろう。快感に身を委ねることが。
「男はさ、一回イっちゃえば、それでここ、滑りよくできるんだけど」
言いながら、指を口元に持っていく。舐めて、と琥太狼は指を凪瑚に舐めさせて、その唾液の滑りで先ほど一本は入るようになった場所にもう一度指を入れ、その手の親指を伸ばして、ぬかるみに触れる。
「凪瑚はそれができないから、ここの、使っていい?」
びくり、と体が震える。
それはきっと、凪瑚が望むことと違う。凪瑚との最中に、他の人間をかかわらせたくないから、その子の話はしなかったのに、凪瑚の方が揺れる目で尋ねてくる。
「あの子の時は…?」
「精液思えばいいんでしょって、言われたよ」
その答えに、凪瑚がふふ、と笑って力が抜けた。その隙に、2本目の指を入れると、体が強張るのがわかった。
「ごめん、痛い?」
「痛くは、ない、んだけど…」
違和感だろう、と察しながら、続ける。
3本まで入って、それでも、それでなくても大きい琥太狼を受け入れるのはきついだろうと思う。しかも、いつもよりも大きくなっている自覚もある。
はふはふ、と息をしながら、熱を帯びた目が琥太狼を探して、首にしがみついてくる。
「も、挿れて…くださ」
「はっ」
この状況でも、敬語、と笑いが漏れる。
「凪瑚、名前、よんで。呼び捨てで」
「…ロウ?」
薫音が呼んでいた呼び名を呼ぶ。それが、一夜限りの相手に呼ばせる名前なのだろうと、それはその通りで。
でも、琥太狼はそれもいいけど、と焦らすように凪瑚から指を抜いて、うつ伏せにさせる。凪瑚の体の負担が少しでも減るように。
「こたろ…ちょうだい」
「っく」
自分で求めながら、名前を呼ばれて息を飲む。
ゆっくり、と言い聞かせながら、腰を持ち上げた凪瑚に、自身を挿れていく。狭い。その熱に全てを持っていかれそうになる。
「は、あ…ぐ」
時々、苦しそうな声が漏れる。本来使わない場所だ。こんなことに。
違う、という感覚を知りたいと凪瑚は言うけれど。違う、と言う感覚で自分とのこの初めての触れ合いを終わらせたくない。気持ちよくなってほしい。イったことがないと言うなら、なおさら。
前に触れることは、嫌がるだろう、とはわかる。イったことがないと言うなら、そもそも女性器の方に挿れたとしても前に触れずにイくのは難しいだろうに。
「凪瑚、こっち顔向けられるか?」
のしかかりながら声をかけると、必死に答えるように顔を向けてくれる。
一晩限りの相手にキスは必要ない。でも、凪瑚は違う。
唇を重ねて、舌を侵入させ、歯列をなめる。上顎の裏をくすぐるように舐め、戸惑ったように応え方を知らないような舌をからめとって、教え込むように執拗に続ける。
そうしながらゆっくりと挿入して、行き止まり、と感じても、大きな琥太狼は全てが入っていない。
それでも持っていかれそうになって、唇を解放し、凪瑚の首筋に唇を当てながら両腕を凪瑚の体に回してぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「こたろ?」
「っ」
不意打ちに名前を呼ばれ、ドクン、と脈打ったのが凪瑚にもわかったのだろう。戸惑ったように体が震える。
「え、なんで」
「煽るな、阿呆」
「え」
「情けな…」
「?」
「気持ちよくて、嬉しくて、挿れただけで出そうになった。ちょっと待って」
「…いいのに。わたしなんかで気持ちよくなってくれて、良かったです」
「凪瑚」
琥太狼の声が、少し尖る。
「お願い聞いてもらってるから、あなたもイイなら、良かったと思って」
「凪瑚。一緒に、気持ちよくなろうね」
ゆるゆると凪瑚をゆすり、刺激を与えていく。
馴染むのを待って、凪瑚の声に甘さが混じるのを待って。それでももたない、と早々に、琥太狼も音をあげた。凪瑚に知られないようにしていただけで、最初にキッチンで凪瑚を腕に囲い込んだ時から、いや、もっと言えば、あの歩道で凪瑚の涙を教えた時から、耐えていたようなものだ。
「ごめん、やっぱり、一回イかせて」
「ん、はっああぁ」
突き上げられて、凪瑚の声が高くなる。苦しそうではないことにホッとしながら、壊さないようにと思いながらもきつく抱きしめて一度達して。
疲れたようにくたりとした凪瑚を抱え上げて、向き合って座る。自分の太腿に乗せて、力の入らない凪瑚を自分の胸にもたれさせながら、ゴムを付け替えた。
「え…」
一回じゃないの、と言われる前に、凪瑚の体を自身の上におろしていく。
「はっ、あ。ああ。あ」
「凪瑚、力入れないで。大丈夫、緊張しないで」
胸にキスをして、それからまた、唇を合わせる。きゅう、と頭にしがみつく凪瑚が可愛い。それじゃキスできない、と笑いを漏らしながら、手当たり次第に唇を当てる。2回目も、望む通り、アナルに。
「琥太狼さん、な、んで」
「ん?」
凪瑚の快感を引き出そうとしながら、琥太狼は凪瑚の表情の変化を見逃すまいと熱く見つめる。
向き合って座ったことで、琥太狼は不可抗力を装って凪瑚の前を擦り上げる。
声が高く細くなるのを心地良く聞きながら、凪瑚の名前を熱く掠れた声で何度も呼んだ。
その声を聞きながら、応じるように凪瑚も琥太狼を呼ぶ。名前を呼ばれるのが心地良くて、怖いのに何処かにどんどん引っ張られていく気がする。それが怖くてなおさら目の前の人の名前を呼ぶのに。
気づけば、凪瑚は、あったかいものに包まれていた。
「ん…」
「凪瑚?」
耳元の、低い声に、意識がさらに浮上する。
そこが湯船と気づいて、背後に琥太狼がいるとわかって、慌てた拍子に滑りそうになった体はしっかりと琥太狼に抑えられている。
余裕がなかったのと、恥ずかしくて直視できないでいたはずの琥太狼のしなやかな筋肉に包まれた腕や足が目に入り、背中にも厚い胸板や、硬い腹筋が密着している。
「恥ずかしがらなくても…」
「いや、正気になると流石に」
「恥ずかしがられると、俺が期待するから大人しくしとけ」
そう言いながら引き寄せられた尻に、硬いものが当たって身を固くする。うそ、と息を飲む凪瑚を笑いながら、琥太狼は甘やかすように凪瑚の後頭部に唇を押し当てた。
「もうしないよ。今日は」
「ん?」
今日は、ってなんだろう、と思うのに、頭が回らない。意識が浮上したと言っても、湯船の暖かさと、甘やかすような琥太狼の腕にだんだんまた意識が遠のいていく。
ちょっと起きてて、と髪を洗ってもらい、体も洗ってもらい。恥ずかしいのに、抵抗する力もないし、そもそも腰が立たなくて1人で座ってもいられない。
どこでまた意識が遠のいたのか、次に少しわかったのは、頭ぐらぐらしてるよ、と楽しげに、琥太狼が髪を乾かしてくれていて。
大きな体に抱え込まれて、寝ていいよ、と言われた気がした。
そうして、きちんと覚醒したのは夜遅く。
鳴っているスマホを手に取ってからだった。
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