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明日葉

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天使

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 お前、そろそろ仕事に戻れ。休憩終わり、と五十里にどやされて、橙子がいい返事をして部屋から出ていく。休憩だからと応接ブースで話していた間、天使だ、と言い切る息子の話に終始していた。僕が、聞いたからだけれど。
「まあ、本当に見た目も天使みたいに可愛い子なんだよなぁ」
「五十里さんは会ったことがあるんですね」
「まあ、海外生活の間ずっと一緒だったしなぁ。うちの奥さんがメロメロで。うちの子がやきもち焼くかと思ったのに、うちの子達も似たようなもんだったなぁ」
 海外での生活の間に多くのパイプを作り、それが今の仕事に生きている。そんな関係各所との調整は難しいものになれば橙子にしか代行できず、五十里を引き抜くには橙子も必要だったのだとは先日聞かされた。
「単身赴任じゃなかったんですね」
「単身赴任じゃ、あれ、連れて行きにくいしなぁ」
 仕事だから関係ないけど、と言いながら五十里は休憩前に避けた図面をまた広げる。打ち合わせをしながら、先日からの疑問がまた頭に浮かぶ。


 5年前。
 事件の後処理を橙子が引き受けていたとしたら。海外に行くと言ったあの短期間で、片付いていたとも思えない。
 それに、この男は全てを承知で誘ったんだろうか。


「…高天さん、何か気になることが?」
「ああ…名前は全然違うのに、なんで白パパ、黒パパなんでしょう?」
「…あははっ」
 一瞬面食らった顔をして、それからさも楽しげにこの人は笑う。朗らかさが、周囲の心まで軽くするような人だ。仕事ぶりを見ていると、厳しい人なのに。
「ちびに名前なんて関係ないんだよ。白衣着てるから白パパ、いつも黒いスーツだから黒パパ」
「ああ…」
 言われてみれば納得しかない。それを受け入れているあの2人というのも違和感しかなくて。
「高天さん、5年前の事件って知ってますか?」
「は…」
「ああ、知ってますよね。まあ、詳しく知ってるわけじゃないんだけど。小さいの育てながらそんな事件のことやるもんでもないから、ちょうどいいって海外に誘ったんですよ」
「…え?だって海外に行ってからですよね、育ててって」
「ああ…まあなぁ。子供が生まれるなんて、事前にわかるだろ?」
 生まれる前から、育てるのはあいつって決まってたからと、不思議なことを言う。
 前に、聞いたことがあるんですよ。と、そのまま話を続ける五十里に目を向ける。
「白と黒もいたな。同性愛者の親友がいるって聞いてたから、ってのもあるんだけど。友達が同性愛者でも気にしないって言えるとして、じゃあ、天使がそうだったらどうする?って」
 家族だとまた違うだろ、と。
 受け入れてくれた僕の家族は。僕はそう言う意味でも、恵まれているのだと、同じ性癖の人と関わる中で痛感していた。同性愛では、子供は望めない。それを言われるのが、一番何も言い返せない。自分が望まない、それはいい。そんなことは承知している。ただ、親にそれを強いることが、と。
 謝罪しか、出てこないと言っていた奴もいた。


「あいつは気が抜けること言うんだぞ。それは別にどっちでもいいんだけど、もし父親を恋人ですって連れてきたらどうしようって」
「え?」
「でも、近親相姦が問題になるのって血が濃くなるからだし、同性なら関係ないからいいのかな、て。あいつの倫理観はわからん」
 まあ、それを倫理観、と言うと小難しい話になって、そこで否定するのはとか答えが出ない話が始まるからやめようと本気であの時に思ったけど、と言っているが。
 気になるのは、そこじゃない。
「父親は、どこかにいるんですか」
「ああ…まあ、男って残念だよな。隠されちまったら知りようがない」
 母親は?なんで橙子が?大事な人、って?
 本人に聞かないと出ない疑問ばかり、ぐるぐると回る。


 混乱している間に、先ほど出て行った橙子が戻ってくる。頼んでいた家具のオーダーメイド。職人との交渉に行っていたのだが予想以上に戻ってくるのが早い。だめだったか、と思うのに、軽く指で丸を作って見せる。
「大丈夫でした。五十里さん、家具入れる前のイメージと、家具の寸法の最小値と最大値くださいって。外せないイメージがあればそれも」
「おう。まとめておく。ご苦労さん」
「じゃあ、今日これで上がりますね。天使のお迎えに行かないと」
「あ、僕も…」
「蒼は、だめだよ。仕事中でしょ?」
 笑いながら、きっぱりと押し戻される。そうしながら、そうだと、紙袋を渡された。
「それ、よかったらおうちであっためて食べて?蒼、なんかすごく食生活が残念そうだから、お弁当作ってきたの」






 5年前僕が好きだった食べ物。
 緋榁の言葉を思い出す。そこで時間が止まったままの僕の味覚が変わっているわけもない。



 人が作ったものを食べたのも、あれ以来。
 病院食すら食べられず、同じのを橙子も食べているんだぞと面倒そうに怒りにきた緋榁を思い出した。




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