対象色〜contrast color〜

明日葉

文字の大きさ
上 下
1 / 12

再会

しおりを挟む
「きょうは白パパ?」
「そうだよ」

 仕事で訪れた会社近く。保育園らしい場所で聞こえた声をなぜか耳が拾った。
「おかあさんは?」
 パパ、とおかあさん、か。
 しろう、て名前につくパパなのか、などと、なぜか頭の中でその声を拾って想像している。
「まだお仕事だよ」
「白パパ、おかあさんにごはん、つくってあげて?」
「もちろん。何が食べたい?」
「ぼく、うーん、えーっと」
「考えながら帰ろうか」


 ほのぼのしたやりとり。
 僕には、一生無縁なもの。











高天たかまさん、よろしくお願いします」
 今度手掛けることになったホテル建設でインテリア関係の発注の多くを依頼することになる会社の担当者。五十里という課長はまだ若く、それほど歳が離れていないようだが、ものを見る目と商品を仕入れてくる手腕は確かだと言われていた。もともと海外にいて、この会社に引き抜かれて帰国したと聞いている。
 僕が人との接触を嫌って握手もNGなことは承知しているようで軽く会釈を交わし、応接用の椅子に腰かけると、彼は周囲を見回した。
「どうされました?」
「いや、今回のプロジェクトで私のアシスタントをする者を紹介するつもりだったんですが。ちょっと失礼」
 立ち上がって腕時計に目をやりながらドアから顔を覗かせる。しばらく探している様子だったのが、声をあげた。
「おい!こっちだこっち。お前、忘れてたな?」
「覚えてましたよっ。部屋間違えたんです」
「いばるな、阿呆」
 すみません、しっかりしてるんですけど時々抜けてて、という言葉は、耳を素通りしていった。

 彼の背後から入ってきた横顔に目を奪われる。
「そもそも、五十里さんが最初違う部屋をわたしに教えたんですよ」
「お前が間違って部屋を取ったんだろ」
「そうでしたっけ?」
 変わらない明るい声は、話しているだけで笑いを含んでいるようで。



「橙子?」



 思わず漏れた声。久しぶりにその形を作った口が、安心している。その音を出せたことにほっとする。


 振り返った橙子はどんな顔をするだろう。

 一瞬、怯えた。

 怒りか。嫌悪か。怯えかもしれない。

 負の感情ばかりを思い浮かべる目の前で、名前を呼ばれて振り返った人は、5年の歳月で風貌が変わった僕を見つめてから、びっくりしたような顔で、破顔した。



「蒼?なんでここに!久しぶりー」



 気が抜けるほど、1週間ぶり、くらいの声音で、5年ぶりに顔を合わせた親友は昔と変わらない仕草で両手を伸ばして僕の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春を売る少年

凪司工房
現代文学
少年は男娼をして生計を立てていた。ある時、彼を買った紳士は少年に服と住処を与え、自分の屋敷に住まわせる。 何故そんなことをしたのか? 一体彼が買った「少年の春」とは何なのか? 疑問を抱いたまま日々を過ごし、やがて彼はある回答に至るのだが。 これは少年たちの春を巡る大人のファンタジー作品。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アイスエジ

佐寺奥 黒幸
現代文学
この町は死んでいた。全てが死んでいた。

処理中です...