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明日葉

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再会

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「きょうは白パパ?」
「そうだよ」

 仕事で訪れた会社近く。保育園らしい場所で聞こえた声をなぜか耳が拾った。
「おかあさんは?」
 パパ、とおかあさん、か。
 しろう、て名前につくパパなのか、などと、なぜか頭の中でその声を拾って想像している。
「まだお仕事だよ」
「白パパ、おかあさんにごはん、つくってあげて?」
「もちろん。何が食べたい?」
「ぼく、うーん、えーっと」
「考えながら帰ろうか」


 ほのぼのしたやりとり。
 僕には、一生無縁なもの。











高天たかまさん、よろしくお願いします」
 今度手掛けることになったホテル建設でインテリア関係の発注の多くを依頼することになる会社の担当者。五十里という課長はまだ若く、それほど歳が離れていないようだが、ものを見る目と商品を仕入れてくる手腕は確かだと言われていた。もともと海外にいて、この会社に引き抜かれて帰国したと聞いている。
 僕が人との接触を嫌って握手もNGなことは承知しているようで軽く会釈を交わし、応接用の椅子に腰かけると、彼は周囲を見回した。
「どうされました?」
「いや、今回のプロジェクトで私のアシスタントをする者を紹介するつもりだったんですが。ちょっと失礼」
 立ち上がって腕時計に目をやりながらドアから顔を覗かせる。しばらく探している様子だったのが、声をあげた。
「おい!こっちだこっち。お前、忘れてたな?」
「覚えてましたよっ。部屋間違えたんです」
「いばるな、阿呆」
 すみません、しっかりしてるんですけど時々抜けてて、という言葉は、耳を素通りしていった。

 彼の背後から入ってきた横顔に目を奪われる。
「そもそも、五十里さんが最初違う部屋をわたしに教えたんですよ」
「お前が間違って部屋を取ったんだろ」
「そうでしたっけ?」
 変わらない明るい声は、話しているだけで笑いを含んでいるようで。



「橙子?」



 思わず漏れた声。久しぶりにその形を作った口が、安心している。その音を出せたことにほっとする。


 振り返った橙子はどんな顔をするだろう。

 一瞬、怯えた。

 怒りか。嫌悪か。怯えかもしれない。

 負の感情ばかりを思い浮かべる目の前で、名前を呼ばれて振り返った人は、5年の歳月で風貌が変わった僕を見つめてから、びっくりしたような顔で、破顔した。



「蒼?なんでここに!久しぶりー」



 気が抜けるほど、1週間ぶり、くらいの声音で、5年ぶりに顔を合わせた親友は昔と変わらない仕草で両手を伸ばして僕の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。







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