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しおりを挟む「どういうこと…?」
セシリアは、目の前で起きていることに呆然と呟く。
兄と第一王子が泊まった翌朝。2人揃って書き置き一枚でいなくなっていた。
内容的には、同じことが書かれていて。片付けたらまた来る、と。
そのまたの日まで同じとは。この2人、実は連絡を取り合って結託しているのではないかと疑いたくもなる。
昼の仕込みをしていたら、外からまた大工仕事の音がしてきて、アダンがまた何か作り始めたのかと覗きに出たのは、あの日からちょうど2月後のこと。
そして、目の前では増築作業が行われていた。
ルードと、リール、それぞれの手で。
「お兄様!?」
「セシル、呼び方が許せないな」
「…ルード、もう、なんでもいいから説明して!」
よしよし、と目を細めた人は、どこで覚えたのかセシリアとアダンが住む家に増築していく。
「爵位は返してきた。いや、俺が継がないとなれば、取り潰された。だから後腐れはない。お前がやっていたように、使用人たちの世話もしてから出てきた。お前に幻滅されたくないからな」
「理由がおかしいですっ。当たり前です」
いや、その前に返爵?取り潰し?あの、結婚相手として超優良物件の兄がそれでここで何をしている。
「俺には、妹が住んでいるここしかもう、家はない」
「…は?」
耳を疑う言葉は、視覚的に合っていると強制的に伝えられる。どんどん、建っていくその増築部分は、自室のつもりか。
そして、もう1人。
「殿下。あの」
「殿下ではない」
「何を」
「リュシーはああ見えて、優秀だ。要領も良い。陛下にリュシーを立太子するよう進言した。そこまで覚悟を決めたのなら、好きに生きよと許可をいただいた」
セシリアは声も出ない。リールは何か吹っ切れた様子でからからと笑う。
「わたしのしていた公務をリュシーに引き継いできたが、しばらくは忙しくてここにも来られないだろうな」
それであの人は来なかったのか、と納得はするけれど、そこじゃない。
リールは、セシリアには言わないが、王家ではまた一騒動起こった後だった。あの日、リールが馬車に引かれそうになったのは偶然ではなかった。偶然、事故を装っての側妃の悪意だった。結果無事であったからよかったものの、また同様の事件を起こしかねない者を城には置けない。いや、当然罰を受けることになる。
だが、そのおかげでリールはセシリアに会い、僅かずつだが自信を取り戻している。そして、予想外の方向から、彼女の望み通り彼女の息子は王太子となった。何かあったときのため、リールは王族から抜けることは許されなかったが。
勝手なことをする2人のところに、アダンが思い切り顔をしかめてやってくる。
我が物顔でセシリアを自分の方へ引き寄せた。
「せっかく静かに暮らしているものを」
忌々しげに言えば、2人とも、これを建ててしまえば静かになると悪びれずに言う。実際、2人ともむしろ騒々しいことを嫌う傾向にあり、このような暮らしは願ったりなのだが。
「ルドヴィル様、シアはあなたの妹ですよ?」
「分かっている。シアに嫌な思いはさせないさ」
血の濃いことの問題は、子供のことだけだと内心で思っているのをアダンはしっかりと、見抜いている。年を追うごとに執着が危うさを増したが。引き離したことは結果、思惑と正反対に働いたのではないかと判断するしかない。
「…殿下、城を離れても、あなたは王太子のスペアでしょう。安全な場所にお帰りを」
「陛下の許可は得ている。よそよそしいな。名前で呼んでくれ。わたしは、責任ではなく、わたしの心で、ここにいることを選んだのだ」
言っても聞かない。
アダンは、セシリアの体に回した腕に力を込め、2人に言い放った。
「お二人とも、邪魔です」
そのまま、2人に見せつけるように、セシリアに口付ける。
驚いたようにアダンの胸を叩くセシリアを無視して。
ルードが剣を抜いた気配があったが、アダンは構わずに閉じ込めるように胸の中にセシリアを抱き込んだ。
「貴女は…あんなのに、絆されないでくださいよ」
「アダンっ」
2人が建てた部屋は、アダンの手で、アダンとセシリアが住む建物には繋げられないように施された。増築、ではなく離れになったことに最初こそあの手この手で繋げようとしていたが、途中で開き直ったらしい。
それなら、こちらに連れ込めばいいのだ
などと、ルードの不穏な発言を、リールがなるほどと聞いていたことには、残念ながらセシリアもアダンも気付けなかった。
Fin
本編終了です。ありがとうございました。
番外編はつらつらと書きます。
番外編を書いていてR要素入ってしまったら…その時に作品情報を見直すかもしれません。
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