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懲りない人たち 7
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で、どうなったって?と聞くまでもないか、と、2人の様子に浅葱は呆れた顔を向ける。
全ては天羽が悪い、というのは浅葱と綾部の共通見解なのだが。ちなみに、絢佳はおそらく、まだ理解をしていない。
様子を見に行きたいのに、天羽は自分がいないときには来るな、と言ってよこした。嫉妬か、余裕ないな、などという冗談で返すこともできないくらいの剣幕で。
それで、騒がせたんだから顔見せろ、と言っていた結果、ようやく天羽の部屋に浅葱が来れたのが金曜の夜。
急にいいぞ、と言われても自分の方の予定が合わなかった綾部は、まあ、任せた、と大して気にする様子もない。毎日のように仕事で日中いくらでも絢佳と顔を合わせられる綾部にしてみれば、そうか、と納得した。
おそらく、綾部だけなら天羽もここまで警戒しなかったのだろうが。
「絢ちゃん、それ、邪魔じゃねぇの?もしくは暑くないのか?」
しっかりと絢佳の背中に張り付いている大きな男を呆れた声で示せば、絢佳はふい、と目を逸らした。
「心頭滅却すれば、ですよ。浅葱さん」
「修行か」
浅葱が笑うと、どうやら天羽が腕に力を込めたようだ。絢佳が顔をしかめる。
さすがになぁ、と浅葱はばかだなぁとしか思えない男を眺める。
「お前、手加減しろよ?」
「うるさい」
あ~あ、と浅葱は深くため息をついた。こんなばかな男なのに、自分も大概ばかだと思う。こんな情けない姿を見ても、変わらないのだから。
「とーや、浅葱さん、かわいそうよ?浅葱さんはとーやが好きなんでしょう?」
「絢佳、それは忘れていい情報だ」
よくはないと思うのよね、と眉を下げるのを浅葱は眺め、なぜか不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。疾矢、忘れない方がいいだろうな」
「っぐ」
喉の奥に何か詰まったような声が頭上からするが、絢佳は動けない。
背後からしっかり抱きこまれた絢佳の前面には、いつの間にか浅葱の体がある。
大柄な男2人に密着する距離で挟まれる状態になり、状況が飲みこめずに頭が真っ白になっている絢佳の頭上では。
忘れない方がいい、ということを思い知らせるように、浅葱が不敵な笑みで至近距離から悪友を見据えていた。
口にはしても、積極的に動かなかったからか、冗談の延長だと思っていたようだが。生憎と、冗談ではない。自分に向けられた言葉を冗談だと片付けられるなら、絢佳に対して言った言葉もそう思えばいいものを、なぜかそちらは忘れずに、言い換えるなら根に持って身構え続けているというのに。
掠め取るように浅葱は距離を詰め。無防備すぎる絢佳を抱え込んだ天羽を襲うのは、これほど簡単だとは。
絢佳を挟むようにして身を寄せれば、不意打ちと、そして身を離すことによって絢佳を浅葱の手元に残しかねないことに気づいた天羽の反応は遅れた。浅葱の手は、しっかりと絢佳の腕を掴んでいたから。
触れるだけ、では済まない程度に天羽の唇を絢佳の頭上で奪うという暴挙に出た後、今しか機会はない、と、天羽が動く前に身をかがめ、何が起きているか分かっていない絢佳に、唇を重ねた。
挟まれて息苦しかったのだろう。空間が空いたことで新鮮な空気が入ってきた絢佳は口を開けて息をしていて、実にやりやすい。
「っん…ふ」
苦しげに絢佳が息を漏らし、身を固くすると慌てたように天羽が絢佳を文字通り抱え上げて浅葱から引き剥がした。
「お前っ何考えてるんだ」
天羽の剣幕に、浅葱は悠然と笑う。
最初から宣言してあったのだ。忘れろ、などと言ったのは天羽の方。忘れればそこにできた隙をつくまでだ。こちらは、天羽しか、絢佳しかいない以上、懲りるとか懲りないとかはない。
「ちゃんと、言っておいたはずだろう?」
まだ状況を全ては理解でいていない絢佳だけが、状況から置き去られたような顔で天羽に抱えられ、天羽を見つめ、そして浅葱を振り返ろうとして、押さえ込まれた。
「あんなの、見るな」
あんなのって、という抗議は、天羽の口に飲み込まれた。
全ては天羽が悪い、というのは浅葱と綾部の共通見解なのだが。ちなみに、絢佳はおそらく、まだ理解をしていない。
様子を見に行きたいのに、天羽は自分がいないときには来るな、と言ってよこした。嫉妬か、余裕ないな、などという冗談で返すこともできないくらいの剣幕で。
それで、騒がせたんだから顔見せろ、と言っていた結果、ようやく天羽の部屋に浅葱が来れたのが金曜の夜。
急にいいぞ、と言われても自分の方の予定が合わなかった綾部は、まあ、任せた、と大して気にする様子もない。毎日のように仕事で日中いくらでも絢佳と顔を合わせられる綾部にしてみれば、そうか、と納得した。
おそらく、綾部だけなら天羽もここまで警戒しなかったのだろうが。
「絢ちゃん、それ、邪魔じゃねぇの?もしくは暑くないのか?」
しっかりと絢佳の背中に張り付いている大きな男を呆れた声で示せば、絢佳はふい、と目を逸らした。
「心頭滅却すれば、ですよ。浅葱さん」
「修行か」
浅葱が笑うと、どうやら天羽が腕に力を込めたようだ。絢佳が顔をしかめる。
さすがになぁ、と浅葱はばかだなぁとしか思えない男を眺める。
「お前、手加減しろよ?」
「うるさい」
あ~あ、と浅葱は深くため息をついた。こんなばかな男なのに、自分も大概ばかだと思う。こんな情けない姿を見ても、変わらないのだから。
「とーや、浅葱さん、かわいそうよ?浅葱さんはとーやが好きなんでしょう?」
「絢佳、それは忘れていい情報だ」
よくはないと思うのよね、と眉を下げるのを浅葱は眺め、なぜか不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。疾矢、忘れない方がいいだろうな」
「っぐ」
喉の奥に何か詰まったような声が頭上からするが、絢佳は動けない。
背後からしっかり抱きこまれた絢佳の前面には、いつの間にか浅葱の体がある。
大柄な男2人に密着する距離で挟まれる状態になり、状況が飲みこめずに頭が真っ白になっている絢佳の頭上では。
忘れない方がいい、ということを思い知らせるように、浅葱が不敵な笑みで至近距離から悪友を見据えていた。
口にはしても、積極的に動かなかったからか、冗談の延長だと思っていたようだが。生憎と、冗談ではない。自分に向けられた言葉を冗談だと片付けられるなら、絢佳に対して言った言葉もそう思えばいいものを、なぜかそちらは忘れずに、言い換えるなら根に持って身構え続けているというのに。
掠め取るように浅葱は距離を詰め。無防備すぎる絢佳を抱え込んだ天羽を襲うのは、これほど簡単だとは。
絢佳を挟むようにして身を寄せれば、不意打ちと、そして身を離すことによって絢佳を浅葱の手元に残しかねないことに気づいた天羽の反応は遅れた。浅葱の手は、しっかりと絢佳の腕を掴んでいたから。
触れるだけ、では済まない程度に天羽の唇を絢佳の頭上で奪うという暴挙に出た後、今しか機会はない、と、天羽が動く前に身をかがめ、何が起きているか分かっていない絢佳に、唇を重ねた。
挟まれて息苦しかったのだろう。空間が空いたことで新鮮な空気が入ってきた絢佳は口を開けて息をしていて、実にやりやすい。
「っん…ふ」
苦しげに絢佳が息を漏らし、身を固くすると慌てたように天羽が絢佳を文字通り抱え上げて浅葱から引き剥がした。
「お前っ何考えてるんだ」
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最初から宣言してあったのだ。忘れろ、などと言ったのは天羽の方。忘れればそこにできた隙をつくまでだ。こちらは、天羽しか、絢佳しかいない以上、懲りるとか懲りないとかはない。
「ちゃんと、言っておいたはずだろう?」
まだ状況を全ては理解でいていない絢佳だけが、状況から置き去られたような顔で天羽に抱えられ、天羽を見つめ、そして浅葱を振り返ろうとして、押さえ込まれた。
「あんなの、見るな」
あんなのって、という抗議は、天羽の口に飲み込まれた。
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