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「な…なんて?つ、つがい?」

確か番ってあれだよな…?動物のオスとメスの夫婦を表す言葉だ。どうしてオレがエルの番だなんて…オレは頭の中にハテナを浮かべる。

「なあ、なに言っちゃってんだよ…エル」

「うん…驚くよな。ファヌにはまだ一度も話した事がないうえに超がつく鈍感だから…まあ普通の人間だから仕方ないんだけど…」

ファヌは鈍感だものとまた繰り返され、残念そうな顔で見られた。少し馬鹿にされた気がするのは気のせいではない。

「ああ、この間からオレは驚きっぱなしだよ。なのにこうして平常心を保ちお前と話している自分を誉めてやりたい位だ。だいたい普通の人間ってなんだよ、お前だって、」

そう言いかけてはっとする。確かにエルは普通なんかじゃない。人並外れた身勝手さと横暴さを兼ね備えたクソ坊っちゃんだった。

そして明らかに人とは違うなにかを持っている。


ファヌ、そう柔らかな美声で呼ばれ「なんだ?」と顔を上げる。
どうしてこいつはいつも無駄にキラキラしているのだろう?


「改めて言うと、ファヌはオレの番なんだよ。オレは初めてファヌと出会い、手を繋いだ瞬間には気付いてた」

「いやいやちょっとまて…だからさっきからその、番って」

「端的に言うと、オレとファヌは夫婦って事」

「夫婦って…」

「もっと分かりやすく言うと抗えない運命的なモノだ」

はて??運命…。オレとエルが?

あまりにも真面目な顔して言うものだからこちらも笑えない。だとしても。

「運命って…そんな大袈裟な…」

「大袈裟でも何でもない。あの日だって今日だって、オレの目の色が変わるのを見ただろ?」

「えっ?…うん」

「あれだって他人には見えない。オレの番だからこそ見えるんだ」

「…」

じゃあ…さっきのだって、取り巻き達には見えなかったってことか?焦って損したじゃん…いやまて、

「おい…そもそも何なんだよアレ…。オレ、あの時めちゃくちゃ苦しかったんだからなっ!お前なんかこわいし…へっ、変なことするし…昔あれだけダメだって言ったのに…」

あの日あった美術教室での事を咎めながらも、エルにされたアノ事を思い出し最後の方は勢いをなくしてしまう。

バカっ、オレ!余計な事を思い出すな!あんな無理矢理なキキキ、キスなんて…!!

「ファヌ…それは謝るよ、ごめん。あの時はあまりにも腹がたって。でももう二度あんな酷い事、ファヌにはしない。キス以外は」

「…!!!おまっ…!」

なんて事…!まずいつからオレとお前がそういう事する仲になったんだよ!突然キスしたり番だと言ったり、こっちはまるで頭が追いついていないのに!

そう言ってやりたかったが、エルのビー玉のような瞳を見て言うのをやめた。きっと今何を言っても無駄な気がする。

ふぅ…と小さく息を吐き、気を取り直す。


「…お前さ、魔力持ちなの?」

「うん」

「嘘…、オレ今冗談で言ったんだけど…」

「けど、そうとしか言えないだろ?」

まあ…うん、そうなんだけど。身をもって体感した訳だからな。

だが改めて言われてしまうとやっぱり困惑してしまう。
だって、魔力持ちなんて噂程度に聞くようなあってないような話。
オレはそれを、物語の中だけの話だと思っていた。

「その力って…その、お前だけ?」

「父方の家系に数名いたらしいが、もう亡くなっている。だから今のところ、シークレットで王室に登録されているのはオレと父だけになるな」

公爵様も…ていうか登録制なのかよ。

…そういえば王家と公爵家の繋がりは強固だと聞くけど、そういうのも関係するのかもしれない。
なんとなく、公爵家があれだけ磐石なのが分かる気がする。


「あと…番ってやつ…?それって誰にでも存在するものなのか?」

「さあ、どうだろう?ただ魔力持ちはその相手が肌で、そして心で分かってしまうんだ。だからこそ異常なまでに相手に敏感になるし渇きも覚える。手に入れたってきっと最後まで執着してしまうんだろうな」

「…こわ…。オレも万が一、自覚しちゃったらそうなるのか?」

「ファヌはさっきも言った通り鈍感だからな。まあ、そこが可愛いんだけど」

「はっ?!かっ、かわ…?!」

なに言っちゃってんだ?
オレは謎の未知なる生物を見るような目でエルを見た。

「でも自覚しようがしまいが、本当の部分ではオレを切り離す事なんて出来ないし、そうなれば本能的にオレを求めて苦しむ事になる」

やけに自信満々だな。

ていうか別にお前とちょっとだけ離れていた最近までだって、そんな気持ちにならなかったし?ちょっとだけモヤモヤしてた位で?けどそれは友情から来る気持ちだ。

「…お言葉ですがオレは純粋にお前を友達だと思っていたし、お前が側にいなくたって平気だったよ。突然番だなんて言われたって何がなんだか…や、本当に納得いかないんだが」

「さすが鈍感」

「鈍感鈍感うるせー!ふん、オレのお前への想いはこんなもんなんだよ」

まず運命ってのはこう…トキメキ?みたいな、そんなドキドキが必ず必要だろ??どう考えたって…。

「ないないない。オレはお前にときめかなっ…なにっ!?」

突然エルがオレの頬に触れる。そしてその長い指先がするりとエロティックに肌を撫で上げる。

「本当に…?こうして触れても?……ふっ…ファヌ、顔赤いけど?」

「あ…」

エルの綺麗な目に見つめられると吸い込まれそうになり、触れられたその場所もじわりと熱くなるのが分かった。

やばいやめろと思うのに、くすりと笑ったエルの顔がゆっくりと近付いて…。



「ぬあーーっ!!!…やっ、やめろ!今また何しろようとしたコノヤロー!!てか、こんな甘ったるい雰囲気醸し出されて、顔が赤くならないやつがいるかよ!」

今すぐ逃げ出してしまいたい感情に耐えられず、オレはエルの手を容赦なく思い切り叩き落とした。

「痛い。けど本当に嫌なら鳥肌モノだと思うけどな」

叩き落とした手をさすりながらこちらをじとりと睨むエルに、心の中で「確かに」と呟く。
…おいおい、オレもまさか自覚しだしちゃってるワケじゃないよな?!!

「ふっ、ふん。なにが番だ、なにが運命だよ。お前、取り巻きのかわい子ちゃん達をコロコロ取っ替え引っ替えしてたじゃねーか」


ふー、危ない危ない。こいつは運命語れるようなやつじゃない!この学園一のタラシヤローだ。




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