7 / 15
7
しおりを挟む「良かった、今日も誰もいない」
シーンと静まりかえる部屋の雰囲気にホッとする。
何度かぼっち飯をするのにお世話になっているこの美術教室。
油と絵の具の入り混じる独特の匂いにが食事に不向きだとしても、なんだかこの空間が心地よくて好きなのだ。あと涼しいし。
それとこの学園に入って気付いた事がある。
オレは人の作り出したモノが好きだ。
それは絵だったり、造形だったりなんでも。
コツコツと大切に生み出されたモノには、きっとストーリーや意味がある。
でもそれは作り上げた本人にしか分からない。
だからその作品を見て、シンプルに感動しながらも勝手に解釈したりして1人楽しんでいた。
もちろん誰かの大事な作品達からはだいぶ距離をとって弁当を食べ静かに過ごす。
今日も一番隅っこのやたらガタガタになった古い椅子をお借りして、弁当を食べながら楽しく作品を眺めていた。
「あれ、こんな絵飾ってあったっけ?」
ふと、壁に飾られた絵に目を向ける。
これは…抽象画。
ふむ…なんてとっつきにくい絵なんだ…じっと見ていると顔がひん曲がりそうだ。
ふ…これだから芸術は面白い。こういった絵こそが評価されるのだから。
「荒々しく力強い…見ている者の精神に何か訴えてくるようなそんなメッセージ性を感じる」
まるで未知の世界に迷い混んだようだ。
激しい色彩とその表現力に圧倒されながらも、どんどん絵の世界観に引き込まれる。
「…現在に至る社会問題、もしくは政治的な何かに目を向けた」
「学校の花壇を描いただけだよ」
「ぴゃっ!!」
突然ふってきた声に驚いて、オレは椅子ごと跳ねる。
「それ、オレが描いたんだ」
教室の片隅。描きかけのキャンバス達をバリケードのようにした一角があった。
そこからひょっこりと覗く顔。
「あ…の、この抽象画です…か?」
「抽象画じゃないよ。ただのスケッチ。そこの下の花壇だってば」
「花壇…」
そっと窓際から下の花壇を覗く。
さすが名門校の花壇だ。…花壇というかもはや庭園。
広々とした緑の芝に、色鮮やかな花々が咲き誇っている。
あっ、もうヒマワリの季節か。こんな暑い日差しにも負けないで、健気にも太陽に向かう姿に心が打たれる。
「…ナルホド、あなたにはあの花壇がこう見えてる訳ですね。さすがです!」
天才は凡人とは違う。同じように見えていてもそれは違うのだ。
「いや、下手くそなだけだから」
「そっ、そんな事ありません!この絵は評価されるべき素晴らしい絵です!」
オレが言うんだから間違いないっ!
「ホント?みんなオレの絵を見たら吐きそうになるって言うけど」
「なっ、」
…確かにちょっとだけ気分悪くなってきた。花壇だと分かってから余計に…。
「で、でもでもこんな風に目立つ場所に飾られてるじゃないですか!」
「魔除けにするんだって。なんかここ幽霊出るらしくて」
「ひぃっ」
うわぁー…聞くんじゃなかった…。
「と、ところで、いつからいました?」
「ん?君がここに入ってくる前から。それに最近よくここに来てるよね」
「えっ、今日だけじゃなくて?!」
まじかー。恥ずかしい…今までのヒトリゴトも全部聞かれちゃったかな。てっきり1人だと思ってたから…。声、かけてくれたらよかったのに…。
「ていうか君、美術センスっていうか…見る目ないよね。いつもぶつぶつと的外れな事言ってるから面白かった」
「はわわ…」
今すぐ穴を掘って埋まりたい。あれ?でもだとしたらあなたもじゃないか…?
「まっ、的外れなこと言ってたかもしれませんがここにある作品は全て素晴らしいです!価値あるモノなんです!それだけはオレにだって分かりますっ」
オレはもうやけっぱちにそう叫ぶ。
作品を仕上げるのにどれだけの期間と努力が必要なのだろうか?それだけでも1つの芸術じゃないか!尊いじゃないか!
「へえ。じゃあ君はその素晴らしい価値あるモノを、この間から椅子変わりにしているの?」
「へ」
「それ、オレが半年かけて作ったオブジェ」
その日、これでもかと言うほどオレのごまつぶみたいな目は見開いた。
223
お気に入りに追加
2,326
あなたにおすすめの小説

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

愛がなければ生きていけない
ニノ
BL
巻き込まれて異世界に召喚された僕には、この世界のどこにも居場所がなかった。
唯一手を差しのべてくれた優しい人にすら今では他に愛する人がいる。
何故、元の世界に帰るチャンスをふいにしてしまったんだろう……今ではそのことをとても後悔している。
※ムーンライトさんでも投稿しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる