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しおりを挟むそれから季節が変わる度、長い連休のほとんどを祖父母の田舎で過ごしたエル。
大層田舎暮らしを気に入ったようだ。
オレも、どれだけの時が流れてもエルと過ごす日々が好きだった。
冬の寒いある日、おばあちゃん自家製の子供も飲める甘いホットワインを一口飲んで、エルが言った。
「ねえファヌ、もう少し大きくなったら王都の僕の通う学園に来ない?来るよね?約束だよ?わあ、ありがとう楽しみだねっ」
「っぶぶっ!!ちょいちょいちょいっ、なんかオレなしで話が全て完結しちゃったよ」
ほんっと沢山喋るようになったよね君。昔はあんなに無口だったのに。でも、会話のキャッチボールくらいしよう?
ああもぉ、口元が血を吐いたやつみたいになっちゃったじゃん。せっかくの自家製ホットワインが勿体ない。
メイドさんがナプキンでオレの口元を拭いてくれる。すみませんね、エルのやつが突拍子もない事言って…驚きましたね本当。
「僕、ファヌが王都に来てくれたら物凄く嬉しい」
「う…うーん、そう言ってくれるのはオレも嬉しいけど、でもそれは無理だよ。ごめん」
「なぜ?」
少し薄めの綺麗な眉を八の字にして、エルが問う。
「なぜって…そりゃオレだってもうこっちの学校に通ってるし…」
「途中から転入してくる子もいるよ?」
「いや、住む所とか…家族だってみんなこっちにいるし」
「遠くから来た子はみんな寮に入るよ。ファヌ、家族と離れるの寂しいの?」
「え…ちがっ、そっそんな事…」
えっ?寂しいに決まってんじゃん。当然だろ?
オレの家は貧乏だが仲良し家族だ。家族と離れた事なんてあんまりない。
自慢じゃないがここの屋敷にしかお泊まりした事がないんだぞ?
朝目覚めた時、あまりにも天井がうちとは違うから「ここどこ?!」ってプチパニックになったもん。
うちは天井がボロくて色褪せてるから枯れたような花柄なのに、ここの天井はエルみたいな天使達が爽やかな青空を色鮮やかに飛び回っている。
…まあとにかく親元を離れるなんて考えられない。…だがなんとなくそれを素直に言うのはちょっとだけ恥ずかしい。
「もう少し大人になったら、だよ?例えば今僕達は中等部でしょう?だから高等部から…そうしたらファヌだって大人だもん。寂しくないでしょう?」
「おとな…」
深々と大きなソファにうもれながら考える。
はて、オレは数年後少しは大人になっているのだろうか?正直家を出るとか考えた事ないんだけど…。ましてや王都なんて大都会…ないないない。
「う…、そもそもオレみたいなのがエルの通うような学校に行ける訳ないだろ?」
「ファヌだって貴族でしょう?うちは貴族だったら誰でも入れるよ」
「…」
エルにはこういう所がある。分かっているのか分かっていないのか。そんなのどうだっていいのか。
大きな暖炉のゆらめく炎を見つめる。
「うち、この間暖炉が壊れた」
「えっ…寒いでしょう?」
「沢山古着を着こんで寒さを凌ぐんだよ」
「そんなんじゃ本当に風邪ひいちゃう。早く新しくて丈夫なモノを作ってもらわないと」
「ははっ、大丈夫だよ。来年の冬にはきっと修理してもらえる。新しくて丈夫な暖炉なんてのは無理だけどさ」
「でも」
薪のパチパチとはぜる音がやけに大きく響く。
「…貴族だからって全部が全部一緒じゃないんだって。分かるだろう?うちとエルのとことは全然違うの」
「なにが?」
「…なにがって…」
真っ直ぐに見つめられてうっ、と言葉が詰まる。
「…エル、ここから離れて王都の立派な学校や寮に入るのにも…全部、沢山のお金がいるんだ。うちはそんなお金ない…本当に落ちぶれた名ばかりの貧乏貴族なんだ。暖炉だって修理費が高くてすぐには直せないんだぞ?」
エルの家だったら、その日中には新しい暖炉が設置されてるかもな。
ははっ…とまた冗談めかして小さく笑う。
「貴族なんて中途半端な肩書きいらないのにな」
そのせいで没落貴族だと周りから余計に馬鹿にされるのだから。
それでも今の暮らしをオレは気に入っている。
たまにそんな風に馬鹿にしてくる奴もいるけど、みんながみんなそうじゃない。
学校だってまあまあ好きだ。
贅沢なんて出来なくても、オレの為に精一杯の事をしてくれる両親には感謝している。
それでもやっぱりこんな話しは恥ずかしくて惨めだ。
自分が凄くちんけな存在だって事を伝えているようなそんな気分…。
エルは大切な友達で親友だ。
だけど貴族社会。
エルに対して、オレみたいなのがこんな風に思う事はとってもおこがましい事なんだろう。
そんなのは分かってる。
でも、少しでもお前がここにいる時位は…。
「だからさ、もうこの話は終わりに…」
「なんだ、そんな事かぁ」
「えっ?」
クスリと笑うエルの可愛らしい声に、ぴしりと頬が引きつるのを感じた。
だからさ、エル。これ以上オレのちっぽけでくだらないプライドを踏みにじらないでくれよ。
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