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しおりを挟むオレの住んでいた小さな屋敷の近所には、これまたどでかい屋敷があった。
そこに住む老夫婦は、オレの住む街の領主様でもあった。
それでも領主様と領民といった関係ではあるものの、オレはその人達の事を「おじいちゃん」、「おばあちゃん」と言って親しくしてもらっていた。
さすがに最初の頃は親に失礼だと酷く叱られたが、おじいちゃんもおばあちゃんも孫が側にいるようで嬉しいから子供らしくそのままでいなさいと言ってくれた。
全く偉ぶらず気さくで優しい二人は、オレをよく屋敷に呼んでは高級なおやつを食べさせてくれたり、昔話を聞かせてくれた。
そんなある日、本物の孫が王都からやってきた。アカデミーが夏休みの間だけ、こちらに滞在する事になったようだ。
おじいちゃん達はすぐにその孫を紹介してくれた。歳も同じだから仲良くしてやってくれと。
はじめましてで思った事。
天使ってマジで存在するんだなって本気で思う位には浮き世離れしたやつだった。
はちみつをとろりと溶かしたような色の瞳も、つんとした小さな鼻も、さくらんぼみたいな紅い唇も、全部が全部バランスよく配置された『お顔』だった。
姿勢とか仕草も子供の癖に気品があった。
この田舎街じゃそんなやつ見かけない。
そんでもって全く笑わない。表情筋がまるで活躍していないのだ。
ただ、今はそんな事どうでも良かった。なぜなら当時のオレはかなり暇人だった。
貴族とはいえ名ばかりで、育ちも環境もほぼ平民。もしくはそれ以下。
何か習い事をする余裕なんてない家で育ったのだ。
上の兄貴達二人はさすがに学校には通ってはいたが普通校だ。
ようするに遊んでくれる兄貴達もいないし、習い事もないオレはとにかく暇だった。
やる事がない。
暇だったが故に、この屋敷にちょくちょく入り浸っていたのだから。
遊び相手…!!そう、オレノムネハタカナッタ。
「ファヌ、エルはこう見えて男だぞ。惚れるなよ」
「えっ?そうなの?ていうかそういうの考えてなかった」
「ふふっ、エルは女の子に間違われるのが好きじゃないのだけど…ファヌちゃんはそういうの関係ないのね」
そういうのってどういうの?女とか男とかって事?確かに綺麗で可愛いけど…。
「そんなんどうでもいいよ。エル…だっけ?オレ、ファヌ!宜しくね」
ぬふふと笑いが込み上げてくる位嬉しくて、オレはエルの白い手を握った。
そしてすぐ力を抜いて優しく握り直した。
だって、触れた掌があまりにも繊細で低い温度だったから。
ぼんやりとしていた目がぱちくりと動いてようやく、初めてオレを映したんだなと気付いた。
「ファヌ…」
「わっ、喋った!」
初めて聞いたエルの高めの声も何だか可愛かった。
「こっちにいる間はオレと一杯遊ぼう?ここの屋敷の裏山、珍しい野鳥や小動物が沢山いるよ!オレが案内してあげる」
ここはお前ん家かと言わんばかりの図々しいオレに、エルは素直にこくりと頷いた。
「じゃがエルは都会育ちの超都会っ子だ。裏山に行く時は必ず大人を連れて行くんだぞ?」
「はーい!」
それからは毎日毎日エルと一緒に遊んだ。
エルも徐々に表情筋が活躍しだして、とびきりのキュートなエンジェルスマイルを見せてくれるようになった。
楽しい!毎日が楽しい!エルの真っ白なマシュマロみたいな頬がサーモンピンクのように色づいて嬉しい!
でも、楽しいや嬉しいだけじゃなかった。
なぜかエルの家庭教師がくる時間になると、オレも一杯に机に座らされ難しい授業を受けさせられるようになったのだ。
後に聞くと、これはおばあちゃんの提案だったらしい。うぬぬ…。
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