高嶺の花は

まと

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その瞳の色は、淡く儚げな灰の色。ツルリとした宝石のようなソレをもう少しだけ近くで見たいと思ってしまったオレは、吸い寄せられるように彼の席に近付き、気付けば声をかけていた。


「ねえ君、なんて名前?」

「...」

「あ、オレ中里なかざとむぎ。麦って呼んで?」

「...」

「ん?」

入学式を終えたばかりの賑やかな教室が、一瞬で静まり返ったのが分かる。けれどそんなことはどうでも良かった。目の前のキラキラした存在が気になり過ぎるから。

「あれ、聞こえてる?」

「...」

無言のままこちらを見据える姿もまた良いと思った。

さらりとした前髪から覗く涼やかな目も、滑らかそうな瑞々しい白肌も、すっとした綺麗な鼻筋も、形の良い唇も、どうにも隠しようがない凛とした品の良さ全てが...なんか良いと思った。

「名前、教えてくれないの?」

「...」

じっとこちらを伺うようなその表情かおに、とりあえずにこりと微笑み返す。もちろん相手は無表情のまま何も言わない。

「おい麦」

「へ?」
「いや見とれんわお前。鬼メンタルかよ」
「あ、ヨシだ。久しぶりー、同じクラスだったん?」
「今更かよ。その感じ、本当変わってないな」
「はて?」
「いやまあいいけど、だいぶ警戒されてるぞ?お前」
「けいかい?あっ、えっと、こいつ中学は違うんだけど塾がずーっと一緒で仲が良いんだ。塾友ってやつ?名前は秋元芳樹あきもとよしきでヨシ」

それで君の名は??

「...」

やはりこちらと会話をする気はないのか。さすがにシュンとしてヨシを見つめる。

「..諦めろ」
「なんで?オレ警戒されてんの?」
「まあ、高嶺の花って有名だからな」
「え、オレが?知らなかった...」
「お前じゃないわ、ど平凡。こちらさんがだよ。高嶺の花って噂がたつ程の有名人なの。多分お前、怪しいし馴れ馴れしい、うざいと思われてるぞ?なにより知らない事に驚くわ」
「たかね...のはな?え、君って有名人なの?...ってかヨシ酷くない??確かにど平凡だけどさあっ」

くそ~と、ちらりとその高嶺の花に視線を送る。なるほど確かに納得の高嶺の花だ。ただ真顔なだけなのに、こんなにも華やかなイケメンなのだから。

それにしてもいまだその美しい顔が数ミリも微動だにしないのは、突然現れた馴れ馴れしい野郎に警戒してうざがっているからなのか。めちゃくちゃ怒ってる?というか男にも高嶺の花って言葉使うの?

どちらにせよ、それなら大人しく撤退しよう。

なぜならうちの双子の妹マナミは、どのつく平凡な見た目の自分とは違い、それはまあ愛らしい容姿の天使だ。それ故によく知りもしない男から気安く声をかけられたり、ちょっかいを出されたりして困っているのだ。

それってまさに今のオレみたいなヤツの事だろ?

「あ~...そかそか...。オレ、ただ君と仲良くなりたかっただけなんだ。嫌な思いさせてごめんな?」

それじゃあとぐいぐいとヨシの背中を押し、その場を立ち去ろうとしたその時。


「...望月怜もちづきれい
「...?」

あれ、今、喋った?と首だけをそちらに向ける。

すると少しだけざわつきを取り戻した教室が、「しゃっ...喋った...!!」と再び静まり返る。低すぎず高過ぎずの透き通るようなイケメンボイスをもう一度!と待ち望むかのように、耳を澄ましているのだ。

「もっ...、望月怜君ね!うん、めっちゃ覚えた!名前も声も素敵だね」
「...」
「えっと、じゃあさ ..その、嫌じゃなかったらでいいんだけど、怜って呼んでいい?」
「...」
「はは、嘘、冗談でーす」
「いいよ」
「へ?いいの?わあっ、ありがとう。これから宜しくね怜」
「...宜しく」

宜しくといったように、すっと白く美しい手が差し出された。まさかそちらの方から握手を求めてくれるなんて思わなかったから、とても嬉しい。

感動を胸に秘めつつ、やんわりと大切に優しくその手を握る。

なんだなんだ、高嶺の花とか関係ないじゃん。
仲良くしてね、とそのまま手を離そうとしたその時。

ぎゅうぅぅぅぅぅうっ、と物凄い力で握り締められる。

「いっ....!!いだだだだっ!いだいっいだいぃぃぃっっ!!」

ぱっと離された可哀想な手を涙目になって抱きしめる。

「くぅ~. ..」
「ごめん...力加減がおかいみたいで」

へっ..へえ~、驚いた...けど仕方ないよな。力加減とか確かにそれぞれだし?仕方ないよ仕方ないない。めちゃくちゃに強く握られた手を、とにかくふーふーする。

「...あははっ、怜、力強いんだな。指の骨が何本か変形するところだったぞ?」
「ごめんね?」
「おおっ、気にすんな。今度からはお手柔らかにな?」
「うん」

眉を八の字にして、若干申し訳なそうな顔をする怜に気にするなと笑いかけた。

そんな微笑ましいやり取りをしていると、ヨシがオレの赤く腫れ上がった手をドン引きのまなこで見ている。

なーに問題ないさ。だって予感がするのだ。オレと怜の相性はきっととても良い。きっと物凄く仲良くなれる。

まあそれはただの直感でしかないけど。


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