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話はこうである。

ある日、エスメの所にマイラ・ティティトリティスがやってきた。
どうしても自分のモノにしたい男がいる。エスメに辿り着くまでに何人かの魔女に魔法をかけてもらったが効果がない。

血眼になり他の魔女を探していたら、エスメという腕利きの魔女がいると聞いたのだという。

そしてエスメは驚いた。この娘が自分のモノにしたいという男は、この国の第一王子オリバー・ムーアだというのだ。

「だが、この王子には婚約者がいるんじゃないかい?確か、公爵家の…」

「イヴリン・グリフィスよ。私、本っっ当にこの女が大嫌いなの!殿下という婚約者がいながら、第二王子殿下にもしっぽをふって!ムカついて色んな物を隠してやったわ。ざまぁみろよ!」

ふんっと鼻で笑うマイラ。

そういえばと、エスメは思い出した。
イヴリンは幼い頃から、王子との婚約が嫌でたまらないとぼやいていた事を。何故かと問うと、

「ナルシストだから。鏡ばかり見てるし、強めの香水の匂いも嫌。
あと自分の意思がないところ。言うことがコロコロ変わる男って説得力ないわよね。自分に自信が無いから外見ばかりに拘るのかしら?」

当時12歳のイヴリンがそう語っていた。それからもずっと、イヴリンの気持ちが変わっていない事も知っていた。
第一王子は何も変わらなかった。ナルシストのまま頼りなく成長したようである。

それならば話は早い。このマイラを利用し、王子とイヴリンの婚約を無かったことにすればいいと。

エスメはニヤリと笑った。




「まさか、イヴリンお嬢様が国外追放を望んでいたとは思いもせんなんだ」

「待って、という事は魅了はいつかけたの?」

「パーティの1週間前ですじゃ」

「あれ?マイラが転入してきた時じゃないの?」

「ですから、マイラ様が転入してきた当時から、魔法関係なく、第一王子はイヴリン様よりマイラ様を好いておりました。魅了は婚約破棄のブーストになっただけでしょう」

「ねえ、ハリエット、それ毎回言われちゃうとちょっぴり惨めなんですけど」

「とにかく本人に話を聞いた方が良いかと」

私達3人は小さな黒猫を見た。
愛くるしい丸い目をして「にゃあ」と鳴く。

「ねえ、なんかさ、この可愛らしい猫がアレに戻るとか、残念の極みなんですけど」

「…確かに。このままにして屋敷で飼いましょう」

「本当ね。と言いたい所だけれど、殿下と想い合っているなら戻してあげないと。
マイラとの婚約が完全に決まれば、私も安心だし」

私はゆっくりと猫を抱き上げた。そして見つめ合う。
何て可愛いんだろう。

今はマイラとしての意識はない。

マイラが転入してきて色んなモノを失った。物も人も。
だけど今思うと全部、"それまでのモノ"だった。

隠された物は、血眼になってまで探す事はなかった。
マイラを信じて離れていった友人に、すがってまで信じて欲しいとも思えなかった。それまでの関係だったのだ。

奪われたモノも確かにあったし、今でも私は貴方が嫌い。
貴女のやった事は最低だし、人によっては絶対に許されない。

でも私の場合、得たモノがとても大きかった。
私が一番望むモノを貴方がくれた。

私は小さな黒猫の頭を撫でた。

マイラに戻れば絶対に出来ない事ね。お互い発狂モノだわ。

エスメが呪文を呟く。



「ありがとう、マイラ。とっても感謝してる」



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