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それにしても。


「っはぁ~っ!良かったっ!あんなナルシスト野郎との婚約が破棄されて。マイラもマイラであんな男のどこがいいんだろ?この国の第一王子ってだけでしょう?」

「この国の第一王子、というだけで大変大きな価値があると思われますが?」

ガタガタと揺れる馬車の中で、侍女のハリエットが静かに呟いた。

「……………………。」

「月も星も出ていませんねえ。明日は雨でしょうか?」

サザァーッと風の吹く音がした。飛んできた何かが馬車の窓にバチバチッと当たる。

窓の外に向けていたハリエットの顔がこちらに向く。

「それとも嵐が来る前触れでしょうか?」

「ねえっ!やめてよ!」

ふぅっとため息をつくハリエット。

「…なぜ否定なさらなかったのです?悪意を向けられていたのはお嬢様でしたのに」

「そうね、本っ当にいつも生意気な顔をしてこちらを睨んでいたわよね。令嬢でもなければ、パンチからエルボーのコンビネーションで一発お見舞いしてやったのに」

「数々の嫌がらせを受けたのもお嬢様でした」

「そうそう、やる事がダサいのよ。教科書隠したり、靴隠したり、殿下から貰ったバレッタ隠したりって、隠してばっかじゃんあの女、犬かっつーの」

あっ、犬といえば愛犬のデイジーちゃんを思い出してしまった。去年22歳でこの世を去ったのだ。大往生だ。
大きくて、もふもふした身体を抱きしめて眠るのが大好きだった。愛していた…。 

「え…?なぜ急に泣くのですか?情緒不安定ですか?」

「ふん、猫派のハリエットには分からない話しよ」

「…。何にせよ、濡れ衣を着せられても構わない程、このご婚約を破棄されたかったのですね」

「ねえ、ハリエット…もしこの国を追放されても一緒に来てくれるわよねえ?」

「…さあ?それは私が決める事ではないので」

「冷たいっ!そこはさあ、当たり前です!私の主人はあなただけなのですから!地の果てまでついていきます!とか言うんじゃないの?」

「地の果てとか勘弁してください。それに、私を雇っているのは旦那様です。すなわち私の主人は旦那様しかおりません。なので旦那様のおっしゃる事に従うつもりです」

「あ゛ぁあ゛ー!!旦那様旦那様うるさいよー!何回言うんだよおぉお」

うわ~んデイジーちゃあーん助けてぇーー!と泣き叫ぶ私にはもう、ハリエットの声は聞こえなかった。



「国外追放?そんな事、あの方が許すわけないじゃないですか」

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