彼はオレを推しているらしい

まと

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夏から秋、冬へと順調に季節が巡る頃。

気付いた事がある。


オレ、よく見られてる。なのでよく目が合う。


その相手は同じクラスのモテモテ男子の有馬ありま瑛人えいとだ。

ありがちだけど、イケメンでスタイルも良くて頭も賢い。そんで親はどこかの大きな会社の社長らしい。本当に少女マンガやドラマに出てきそうなやつ。

クラスでもカースト上位的な目立つグループに属している為、あまり、いやほぼ話した事はないが何となく近寄りがたいイメージを勝手に抱いている。


いつものように後ろの席のあっ君に朝の挨拶をしつつ、机に鞄を置く。そしてまた、いつものように視線を感じてそれとなくそちらを見れば...重なる目と目。

やはり今日も有馬がこちらを見ているのだ。


(本当、なに...?)


相手が女子ならば「え?またこっち見てるんだけど?もしかして...オレノコトスキナノ?」なんて、単純でモテないオレは勝手に恋の始まりを予感してしまったかもしれない。

だけどさすがに有馬ほどの相手だとオレもそんな馬鹿げた勘違いはしない。それに有馬もオレも同じ男同士だし。

なに?と首を傾けてみれば、これまたいつものようにふいと視線を外された。時間にしてみれば3~5秒の謎タイム。

(謎というか感じ悪っ!)

だけども透き通るような紅茶色の目はどこか儚げで色気もあって、モテるのも頷けるなと素直に納得してしまう。

とにかくその視線の意味がどんな意味を含もうとも、女子ならみんな勘違いしちゃうんじゃないだろうか?


(ていうかもしかしてオレ、嫌われてんのかな?)


もはやそうとしか思えない。



「ねえ、あっ君。何だか心細くなってきた」

「なに、どーした一花いちか

「オレ達一生親友だよね」

「それはどうかな。未来の事は誰にも分からない」

「そうかそれは残念だな。オレはズッ友にしか自慢のノートを写させないと決めてるんだ」

「はは、聞くまでもないさ。もちろんオレ達は未来永劫ズッ友に決まっているだろう?」

グッと親指を立てウィンクをするあっ君をじとりと見てため息をつく。

…あっ君、寝てばかりいないでたまには真面目に授業受けなよね。




そんなこんなで放課後、仕方なくあっ君にノートを渡して教室を出る。
ちなみにあっ君は部活で、立派な帰宅部のオレは真っ直ぐお家に帰るのだ。

「あ」

下駄箱で靴を履き替え外に出た瞬間、ぽつりと冷たい滴が頬に当たった。

釣られるようにして空を見上げれば、どんより灰色の空が広がり、またもや冷たい雨粒が顔に当たる。

「うそだろ…」

そしてあっという間の本降りにガクリと肩を落とし項垂れた。

今朝の天気予報では1日中晴れ予報だったはず...。だから傘なんて持ってきていない。

ついてないなと、一旦昇降口に戻り雨宿りをする。


(はあ...こんなことなら早く帰ればよかった…)


あっ君の部活が始まるまでの間、だらだらとくだらないお喋りに付き合っている場合じゃなかったなと後悔する。

いや、けれどもそんなくだらない時間が楽しいのだ。まあこれはこれで仕方ない。


(..もう11月か..寒くなってきたもんなあ)

爽やかで過ごしやすい季節がそろそろ終わりを告げようとしていて、それがなんとなく物悲しい。


先程より強まる雨をぼんやり眺めていると、真横で傘の開く音がした。

(置き傘かな。いいな~、もう濡れてもいいからコンビニまでダッシュしようかな…そこで傘でも買って帰ろうか)

そんな風に考えながら羨ましげにちらりと隣を覗き見て、一瞬ぽかんとしてしまう。

そしてその人物を認識した瞬間、驚いて目を見開く。

(うぇっ…有馬じゃん…!まだ帰ってなかったんだ)

気まずさでぱっと正面へと顔を戻して、何事もなかったかのように平静を装う。

これまで何度も目が合い、何度もどうしたのと首を傾けては無視をされているのだ。

自分の中ではほぼ嫌われているのだと想定しているので関わりたくないし、「バイバイ」からの無視はさすがにキツイ。
なので自分からの挨拶なんて意地でもしない。

こちらの存在に気付いているのかいないのかは分からないが、有馬も有馬で雨の降る外へと傘をさして歩いていく。

(ふん、オレが一体何したっていうんだよ)

「はあ...」


それにしても後ろ姿からしてイケメンである。

スタイルの違いか、自分と同じ制服を着ているようには思えない。

緩く着崩している訳でもないのにお洒落に見えるし、シワ一つない濃紺のブレザーが物凄く似合っていて、いかにも良いとこのイケメン生徒って感じだ。

(品まであるとか...ズルいよなぁ)

実際うちの学校は金持ちの多い進学校だ。我が野々原家は普通の家庭レベルなので、親からは留年したらただじゃおかないからねと口酸っぱく言われているけど。

有馬の完璧スペックを妬みながらスッキリとした背中を見つめていると、突然有馬がこちらに振り向いた。

(やば!こっち見てる)

焦って細めていたゲスい目ををこれでもかとパチクリさせて、「うん?」と過剰に首を傾けた。
...どうせまた無視されるだろうけど。

すると有馬がこちらに戻ってくる。

「え…え?なに、こわっ?えっ?」

自分の後ろに誰か有馬の知り合いでもいるのだろうか?と振り返る。が、誰もいない。

もしかして心の中の醜い妬みがだだ漏れてしまっていたのだろうか?

またすぐ有馬の方を見れば、すでに目の前に立っていた。

「わっ」

(オレ、殴られる?!)

咄嗟に身構えて、怯えた目を有馬に向ける情けないオレ。

「……………」

「あ、あの…………えと?」


何も言わず、何もしてこない有馬はじっとオレを見ているだけだ。

(なに?!もう本当になんなんだよっ!)

オレはどちらかといえば平穏な暮らしを好む平凡男子なんだ。揉め事とかトラブルはなるべくなら避けたい。

だからどうしてもオレに言いたい事があるのならちゃんと言って欲しい。

ゆっくりと姿勢を正し、悔しいが見上げるようにして無表情の有馬と対峙する。

こんなに面と向かって顔を合わせるのはもしかして初めてなのでは?

なるほど、これは女子が騒ぐはずだと改めて思う。

ツルツルであろう白い肌にはニキビひとつないし、切れ長の涼しげな目やスッとした鼻、ふわふわしていそうな唇も全部バランスよく配置されている。

あと、少し目尻にかかる黒髪もなんか雰囲気あって良い…じゃなくて!!


「なっ、なに?なんか用…?言いたい事があるなら言ってくれない?」

いい加減オレを有馬の視線から解放して欲しい。そう祈るように、オレにしては強い目を有馬に向けていた。

そしてそれに答えるように、ようやく呟かれた有馬の言葉は…。


「…傘、入ってく?」

「え」


ザーザーと雨音は激しくなっていく。


それなのに、その穏やかで柔らかな有馬の声だけはハッキリとオレの耳に届いた。





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