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ルォラン姫

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「ああ、お聞きしたいことがありましたの。殿下の御加減はどうですか?何か騒ぎがあったというだけで詳しくは知らないのですが。…あら…頬に土が」

「えっ」

さっと頬についていた土を、ルォラン様のレースが施された綺麗なハンカチで拭ってくれた。

「あ、ありがとうございます!とっても綺麗なハンカチなのに…ごめんなさい!あの、洗ってお返します」

いや、この場合新しいハンカチを贈るもの??

くすりと美しく笑うルォラン様が、ジャライというお付きの人にハンカチを渡す。

「大丈夫ですよ、気になさらないでください。お優しいのですね、ニナ様は」

や、優しいのはルォ…?ルォラン様ですっ。

「いっいえ!えっ、えと王子は、少し疲れちゃって休んでますが、身体に大事ないとの事ですっ」

どうしよう?王子の事をどこまで言っていいのか分からない。


「そうなのですね、それは安心しました。後宮に残っている者は皆、ルイ殿下が魔力暴走起こし、お倒れになったと聞きそれは心配しておりましたのよ。
それに、最後位は殿下にご挨拶したいと思っていましたから」

やっぱり魔力暴走で倒れた所までは知ってるのかぁ。それじゃあ何となく、なんでそうなったのかも知ってるよな…。

だとしたら王様に反対されたやつが、何で後宮でうろちょろしてるんだよって話だよね?

はっ、恥ずかしい!色々と!

でも、こんなに穏やかで美しい人が王子に会うのを心待ちにしてたんだと思うと…何だか心の中がもやもやとしてしまう。

だって、誰が見たって王子の隣はオレなんかよりもルォラン様の方がお似合いなんだもん。

ああ、嫌だな。とっても嫌な感情だ。


「今日はニナ様にお会い出来て良かったですわ。
ですがーーーもうあまりこちら側にはいらっしゃらない方がよろしいかと…城内とはいえここは後宮。散歩道にしては少し、危険ですわ」

「…それって」

オレがこの後宮のお姫様達からよく思われてないという事だよな。…まあ当たり前の事か。この人達からしたらオレは厄介者だろう。

でも危険ってどういう意味?まさかお姫様達がオレに何か危害を与えたりするかもって事??

「ニナ様はとてもお可愛らしいですから…突然お姿を消してしまったら殿下が悲しみますよ」

ええっ?!何?怖いんですけど!

急に今いる美しいこの場所が、恐ろしくなった。去ります!すぐ去りますから!


「ルォラン様、そろそろ」

「ええ、ジャライ。それではニナ様、また機会があれば」

「あ…はいっ!また!」

ジャライと言う人と、優雅に後宮の中へと戻って行くルォラン様。


「ふぅっ…アーネラ様も綺麗だけど、ルォラン様も綺麗な人だったなぁ。妖精みたいな人だった…って、本当に戻らなきゃ」

オレは急いでホワイトタヌキに戻り、匂いと勘を頼りにアティカスの元へと走った。




振り返り、走り出したホワイトタヌキの後ろ姿を氷のような冷たい目が見つめる。


女神のような暖かい微笑みはそこにはない。

「ジャライ」

「はい」

「そのハンカチはもういらないわ。捨てておいて」

「よろしいのですか?このハンカチはとても気に入っているとおっしゃっていたはず…」

誰もが魅了するような美しい微笑みで、ルォランは答えた。

「そうね。でも、今嫌いになったの。とてもね」

白い手が、それを視界に入れるなと言わんばかりにひらひらと揺れる。



「…承知致しました」





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