61 / 75
変態だけど良いヤツ
しおりを挟む出来上がった薬を、次々とアイテムボックスに収納していく。
庭に敷かれたビニールシートに寝そべり一息つく。
そうそう、いつも薬作りをする時はこんな風に植物に囲まれて、ビニールシートに座って作業をしている。
ちなみに可愛らしいカラフルなチェック柄シートは、ララウが用意してくれたんだ。
一度王子が庭に工房を建てようかと言ってくれたけど、滅相もないと断った。
なによりこのスタイルが好きだからな。ククタリの育てる沢山の植物に囲まれて、自然の空気を吸いながらのんびり作る薬はとても出来が良い。
まあこれからどんどん暑くなるから対策していこうねと王子に言われている。
あっ、もちろん王子がくれたひんやりバンダナは、今日もちゃんと首に巻いているので快適です。
「ふうっ…、後はギルドに薬を卸すだけだな。いつも新鮮で立派な薬草を育ててくれてありがとう、ククタリ」
「…どういたしまして。薬、かなり多めに用意したん…ですね」
「王都に行ったら、いつこっちに戻れるか分からないからなぁ。…ていうかククタリ、オレなんかに慣れない敬語なんて使わなくていいからっていつも言ってるじゃん。本当は様付けもしないで欲しい位なんだから」
「…殿下がお戻りになっている時位、ちゃんとしなさいって、ララウが…」
「いやぁ、気にしないと思うよ?」
「…じゃあニナ様」
「ん?」
「…ニナ様が王都に行っちゃったら寂しいな…」
「クッ…ククタリッ!!」
なんて良いヤツなの?
本当にそう思ってる?って位、無表情でダルそうな顔してるけど、オレ嬉しいよ。
イケメン滅びろとか、たまーに思っててごめんね。
「…可愛くて、真っ白で、もふもふなニナ様に当分触れなくなるなんて…」
「…ククタリ、その寂しさを色んなレディで埋めるのはやめてよね」
じっとりした目付きで、ククタリの事を睨み付けてやる。
本当に罪なホワイトタヌキだよね、オレってば。
ぼんやりとした切れ長の目を、少しだけ見開くククタリ。
「…ニナ様、嫉妬??」
「お馬鹿!そんな訳あるかいっ!オレには王子という大切なフィアンセがいるんだぞ」
「フィアンセ…大変そ…」
「…やっ、やっぱりククタリもそう思う??あー!!オレ、王様や王妃様にちゃんとご挨拶出来るかな?今、お茶や食事のマナーとか色々必死で練習してるんだけどさぁ、覚える事も一杯あってくじけちゃいそうなんだよ」
オレの恥は王子の恥だからな。多少のマナー位なら覚えておかないとなんだけど…人間のマナーって本当に難しい。
練習で出来ても、本番上手くやれるか不安でたまらない。
はあ…。
「…」
視線を感じて、見上げるようにククタリを見る。
「どしたの?」
「王都で嫌な事があったり、逃げ出したくなったらおれの所に来て」
「えっ?」
「おれがニナ様を隠してあげる」
「……ふはっ、ありがとう、ククタリ。そうならないようにオレ頑張ってくるよっ」
「…うん、頑張って」
ククタリなりにオレの事を心配してくれてるんだな。
にんまりとククタリに笑いかけると、うっすらと微笑み返してくれる。
おおっ、ククタリの笑った顔!レアだっ!
「ニナ」
呼ばれて振り返ると、少し離れた場所に王子がいた。
「あっ、王子だっ。おーいっ!」
オレは嬉しくなってジャンプしながら手を振る。
「じゃあククタリ、オレ行くね」
「うん」
走り出そうとした足を止め、ククタリの方へと振り返る。
「…あのさククタリ、余計なお世話かもしれないけどさ、オレ、ククタリが女の子に恨まれて背中をグサッと刺されちゃうのは嫌だからね」
「…」
「ククタリにもララウにも…そしてここにいるみんなには幸せになって貰いたいんだよ」
「…」
「…なんて、オレの勝手な思いなんだけどさっ」
本当に勝手なんだけどさ。いつもオレに良くしてくれるみんなには幸せでいて欲しい。
それでもククタリにはククタリの考えや生き方があるから、オレの思いを押し付けちゃだめだよな。
「ニナ様…」
「って、王都に行くのは来週なのにしんみりしちゃったな!」
へへへっと笑う。
「…うん、なるべく恨まれないように生きる」
「なんだよそれ…」
まあククタリらしい返事だ。
「それじゃあね!」
「ばいばいニナ様」
今度こそ王子の元へ走り、王子の胸に抱きつく。
「王子っ、迎えに来てくれたの?」
「うん。アーネラがニナとお茶をしたいと言ってたいたよ」
「本当?じゃあ待たせちゃ悪いね…ってどうしたの?」
王子が見つめるその先を見る。
「…庭師のククタリと言ったか…」
「うん、そうだよ。どんな難しい品種でも立派に育てあげちゃうガーデニング界の奇才だよ」
変態だけど。
振り返ると、オレンジや黄色といった色鮮やかなマリーゴールドの花々に囲まれたククタリが、こちらに向かって綺麗なお辞儀をしている。
意外だ。
オレも格好良くキマるお辞儀の練習をしておこう。
「ふぅん…」
「王子、行こう?」
「ああ」
自然と、どちらともなく手を繋ぎ屋敷の中へと歩き出す。
オレはもう一度ククタリの方へと振り返り、軽く手を振る。
ククタリも小さく手を振ってくれた。
さあ、今日のおやつは何だろなあ!
ルンルンと気分良くスキップするオレ。
妖艶にクスリと微笑み、何かを呟くククタリには気付かない。
「…ニナ様、恨まれずに生きるのは無理かもしれないな…」
142
お気に入りに追加
7,421
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる