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素晴らしい一日

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「もちろん、約束する」

王子のその言葉にパッと顔をあげたおじさんは、感極まったように再び深く頭を下げた。

そんな二人の姿を見て、胸がきゅうっと締め付けられる。でもそれは嫌なものではなく、幸せすぎてどうにかなっちゃいそうなものだった。

きっと、オレはこの瞬間を一生忘れない。





「アーネラ様、一人にしてごめんね。大丈夫だった?」


あれからおじさん達とは別れた。

なんだか照れくさそうにしているおじさんは、もう充分に木の実は採れたからとおばさんとディルを連れて村に帰っていった。
もう少し話していたかったけれど、「すぐ、また来いよ」と言ってくれたので、オレは笑顔で見送った。



「私は大丈夫よ、護衛騎士もついてくれていたし。ニナ、大切な人に本当のことが伝えられて良かったわね」

「うん!ありがとう、アーネラ様」

ニコニコと笑い合うオレとアーネラ様。

「それよりアーネラ。君こそ大切な人に本当の事を言えたのか?」

あえて、大切な人を強調して話す王子。

「そっ…それは…」

オレの淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでいたアーネラ様の手が、ピタリと止まる。

「アティカス、お前もだぞ」

「はっ、はい」


「お前たち、どう見たって同じ気持ちだろう?」

ちょっと王子、放っておくんじゃなかったの?勝手になるようになるだろうって言ってたじゃん。

ほらほら、アーネラ様もアティカスも突如落とされた爆弾発言に真っ赤な顔してオロオロしてる。

確かにあれだけ二人の世界を作っておいて、まだなるようになってなかったんだ?と驚きを隠せないけれど。

どうするの?これ。

王子は王子で、早く決着をつけろと言わんばかりの顔で腕を組み二人を監視している。
もう、軍曹ですわ。

王子って割と自分の気持ちを隠さないタイプだから、うじうじしている二人を見ていてイライラしちゃうのかな?

意外と男らしいよね!

まあイケメン王子様ってだけで振られた事もないだろうし、王子の場合相手から寄ってくるんだろうしな。

ふっ、ふん!イケメン羨ましいな!

あっ、というかうじうじとか言っちゃった…ごめんアティカスとアーネラ様。

「まっ、まあさ王子、オレ達の前じゃ言いたいことも言えないんじゃない?」


ねえ、アティカス?
だよね?アーネラ様。


「…いいえ。僅かでもお伝えするチャンスがあるのなら、それを逃す訳にはいきませんわよね」

凛とした眼差しで、アティカスを見つめるアーネラ様。

きっとアーネラ様のようなお姫様には、自由に恋愛をして結婚するなんて難しいことなのだろう。

けれどアーネラ様にはそのチャンスが与えられた。本当に好きな相手に思いを伝えることが出来るのだ。

どれほどそれがアーネラ様にとって、奇跡的な事なんだろう?

そして、オレがこうして王子と一緒にいられることだって…。

ゆっくりとアーネラ様が深呼吸して、口を開きかけた時。




「殿下、ひとつお聞かせください。私は殿下を裏切るような真似はしておりませんか?」

突然、アティカスが王子に向き直る。

「俺とニナを見て、分からない馬鹿ではないと思うけど?」

「はい…もちろんです。ただポーズ位はとらせて頂きたかったのです。私はこの先もずっとあなたの騎士なのですから」

「それ、今俺に言う台詞じゃないよね」

「ふふ、それもそうですね」

そしてアティカスは、アーネラ様の前で片膝をつく。シャキーンと背筋を伸ばし、堂々としたアティカスがめちゃくちゃ格好良い!

まるで何か神聖な儀式でも見ているようで、真剣なアティカスの目にこちらまで緊張してしまう。



先程まで自分が告白するつもりでいたであろうアーネラ様。
「えっ?なぜ?」とオロオロしている。

ふわりと、アーネラ様に優しく微笑みかけるアティカス。


「アーネラ様…私は殿下のお許しがなければ、あなたに想いひとつ伝えることのできない情けない男です。

それでもあなたをお慕いする気持ちに嘘偽りはありません。一生をかけてあなたを守り、支えていくと誓います。

どうかこの気持ちを受け取っては頂けないでしょうか?」



「…っ!!わた…私だってずいぶん前から、アティカス様のことをお慕いしておりました。…」



アーネラ様が顔を赤くし、ポロポロと綺麗な大粒の涙を流す。

そんなアーネラ様の顔を見ていると、こちらまでうるうると目に涙が溢れてくる。

それに気づいた王子が俺の頭を優しく撫でるものだから、オレは自分の顔を隠すように、勢い良く王子のお腹に抱きついた。

「それでわ…アーネラ様」


「はい、私をずっと…あなたの側に置いてくださいませ。アティカス様」




ちらりとアーネラ様を見る。


涙と鼻水で相当酷い顔をしているオレとは違い、アーネラ様の泣き顔はとても幸せそうで女神様のように美しかった。




まるで祝福するように、爽やかな風が木々を揺らし吹き抜ける。

嬉しくて嬉しくて堪らない一日の終わり。




本当に本当によかったね、アーネラ様。










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