58 / 75
大好きだよ
しおりを挟む(お、王子…)
当然のようにアティカスからオレを受けとる王子が、おじさん達に気付く。
「誰?」
「はあ、その…」
アティカスも困惑顔だ。
そして、王子達が何者なのか何となく分かってしまったおじさんとおばさんは、ガクブルが止まらず可哀想だ。
( あの、王子!村のパン屋のおじさん達だよ!おばさんとディルもいる)
「ああ…彼らが…」
成る程と言うように、おじさん達を見る王子。
王子、ちょっと王族オーラ消してあげて!
おじさん達、また「ヒィィィ」とか言っちゃってるから!!
(ぐっ、偶然会ったんだ。でもオレの事、人間のニナって知らないから…)
「言わなくていいの?」
(気持ち悪がられちゃうかも)
「そんな訳ない。こんなに可愛いのに」
(も、もう…)
って、照れてる場合じゃない。
まるで会話しているかのように見えるオレ達を、不思議そうに見るおじさん達。
まあ事実会話しているんだけど…。
「あ…あの、そのタヌ…えっと…」
「ホワイトタヌキだ」
戸惑うおじさんに、王子が言う。
そうなんだおじさん。オレ、野生のタヌキじゃないんだよ。
「ホワイト…タヌキ?噂で聞いた事が…ってそれじゃあ魔物??!!」
おじさん…。
魔物とは知らず仲良くしちゃってた訳だからな…と、おじさんの驚いた表情を見てツキリと胸が痛む。
やっぱり魔物と触れ合うのは不気味だよな?
きっとこれからも、ホワイトタヌキのオレが人化したニナでもある事は言わない方がいいんだ。
「このホワイトタヌキが恐ろしいか?」
「恐ろしいだなんてそんな…こんな可愛らしい魔物?見たことありません。…ただ、王族様の大切になさっているペット?とは知らず…馴れ馴れしくしてしまったかもしれません。もっ、申し訳ありません!!」
可愛らしい魔物??!本当に?…あ、でも王子のペットだと思って気を使ってくれているのかも…。
オレの正直なしっぽがふわりふわりと嬉しそうに揺れたり、へにょりとしょんぼりしたりで忙しい。
そして、おばさんがおじさんに「ペットなんて失礼じゃないのかい??!!」っと小声で怒っている。ははは。
「ペットではなく婚約者だ」
(おっ、王子!)
ちょちょっ!!!王子それ言っちゃうの!?嘘でしょう?
大丈夫かな…?
王子、おじさん達に頭おかしいと思われちゃわない?
「こ、婚約者?様…」
「私の婚約者はあなたの店のパンやあなたの家族が大好きなようだ。これからも良くしてやって欲しい」
「はい…?」
ぽかんとした顔で、おじさん達が王子とオレを交互に見る。
おじさん達は王子に、村でパン屋を営んでいるとは一度も話していない。
なぜ?と言った顔だ。
「にーなっ」
ディルがオレに向かって、ニコニコと笑いかけてくる。
(ディル…)
「ニナって…まさか」
おじさんとおばさんが、目を見合わせる。
王子の言った事やディルの様子に、まさかとよぎった考えが、だんだんと真実味をおびてきているようだった。
不安げな顔をしたオレの背中を、 大丈夫だよと優しく撫でてくれる王子。
その穏やかな眼差しに、少しずつ勇気が湧いてくる。
(王子…)
よし!っと覚悟を決めたオレは抱っこ状態から地面に降ろしてもらい、ぽぽんっと人化する。
「ニッ、ニナ?!!」
人間の姿をしたニナに。
そして突然人化し現れたニナの姿に、驚くおじさん達。
ごめんねと少し苦笑いしてしまう。
「…おじさん、おばさん、ディル…今まで黙っていてごめんなさい。オレ…人間じゃない…魔獣なんだ」
「ニナ…おまえ…」
「初めてこの森であった時、おじさんがとても優しくしてくれて…その時食べさせてくれたパンも美味しくて…オレ、おじさんの事もパンの事も大好きになっちゃったんだ…それで別れた後、こっそり後をつけてっいっちゃった…ごめんね…」
「…ニナ」
その時初めて自分が人間になれると知った事、ギルドでお金を貯めて、パンを買いに行っていた事を全て話した。
「ごめんね。気持ち悪かったよね…」
「…ばかだなぁ、ニナ。確かに驚いたがもっと早く言って欲しかったよ。オレは人間のニナも好きだし、魔獣のお前にもずっと会いたかったんだぞ…そうか、そう言う事だったんだな…」
オレに近付き、オレの頭をぽんぽんと優しく叩くおじさん。
その瞬間に、ぽろりと溢れてしまう涙。
ああ、オレって本当に泣き虫だ。
「本当だよニナ。…気持ち悪いもんか。あんたはいつも可愛くて優しい子で…もう家族みたいなもんなんだよ。ね、ディル」
「にーな、だいすきぃ」
.
おばさん、ディル…!
そんな風に言ってもらえる事が嬉しくて有り難くて、もはや涙が止まる気がしない。
「おじさん…おばさん…ひっく…う…ディルぅ…」
「ニナ、お前…幸せなのか?」
おじさんが心配そうに、オレの顔を覗き込む。
きっと、王子の事だよね。
「うん、とっても幸せだよ。凄く凄く大切にしてもらってる」
そうか…と呟くおじさんが王子に頭を下げる。
「…王族様…私共が言えた義理でもなく、とても無礼な事かもしれません…ですがどうかニナの事を宜しくお願いします」
おじさん…!
117
お気に入りに追加
7,371
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる