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なんで。
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いま、この城にアンナがいる。
庭で青ざめるニナを抱っこして、背中をポンポンと優しく叩きながら「大丈夫だよ」と王子は言った。
そのまま一度王子の部屋に戻り、人化した。もしホワイトタヌキの姿をアンナに見られたらと思うと恐かったのだ。
ソファに座りクッションを抱きしめる。
アンナの怒り狂う恐ろしい顔が、脳裏に浮かんだ。
おじさんの、ぐちゃぐちゃになってしまったパンは、巣穴に帰る頃には無くなっていた。何度も転げ、意識が朦朧としていたから。
「オレって何てバカなんだろう」
はぁっ。と息をはく。オレは少し人間との距離を間違えてしまったのかもしれない。
やはり人間とオレ達では生きる場所が違うのだ。
他の魔物や魔獣も、オレが人間と関わりを持つ事に驚き反対する。
アリエナイと。
基本人間とモンスターは敵同士なのだ。今この瞬間だって殺し合いをしているかしれない。
ギルドの冒険者達だって毎日のようにモンスターを討伐する。
全て分かっていた筈なのに。オレは自分は大丈夫だと心のどこかで思っていたのだ。
人間とも他のモンスターとも上手くやれると。
でも少しづつバランスは崩れていた。もっともっとと人間に近付くオレのせいで。
アンナの事は恐いし、正直二度と会いたくない。
けれどアンナをあんな風にしたのは魔獣のオレかもしれない。
オレさえ、あの森の屋敷に近付かなければ良かったんじゃないか?
「何て顔をしてる?」
はっとして顔をあげる。
王子がドアの前に立つ。いつの間にか戻ってきていたみたいだ。
「あ…王子」
穏やかな目でオレを見つめる王子に、オレはにこりと笑った。
「お帰り王子」
王子はオレの隣に座る。
「ただいま」
オレの頭を撫で、おでこにキスする。ゆっくりと唇を離し、オレの目を見る。
「アンナはいくつかの罪を犯している」
「そう…なの?」
「だからもう、あの屋敷で働く事もなければ、普通の生活を送る事も当分は叶わないだろう」
「そう…なんだ」
そうか。もうアンナに会うことはないのだろう。何となくそれだけは分かる。でもそれとこれとはまた別だよな。
「王子、何だか今日は格好いいね」
小さく笑ってオレを見る王子に何となくへらっと笑い返し、オレは視線を外す。
「城の中ではちゃんとした格好をしろと兄上が煩いんだ。森の屋敷でのオレはだらしない?」
「ううん、そんな事ない。あっちはあっちで格好いいに決まってる!
…ただ王子のこんな格好良い姿見ちゃうと、やっぱり住む世界が違うんだなって思った」
オレなんかが側にいちゃダメなんだって事位は分かるよ。
「王子、オレすっごくお世話になったよね。何にも返せないのが心苦しいくらい」
オレは王子の目を見ないままぺらぺらと話し続ける。
「ありがとう、王子がいてくれ…」
「まるで別れの挨拶みたいだな」
視線を王子に戻す。感情の読み取れない表情をする王子。
「別れ…とかそんなんじゃないよ。ただ、身体も楽になったしそろそろ森に帰らなきゃ」
別れとかじゃない。完全に皆と離れるのは寂しくて悲しい。
けれど少し近すぎたんだ。人間とオレ(魔獣)との距離が。
「ニナを待つ者がいるの?」
「それは…」
そんなのいない。だってオレはぼっちだから。
「いない…けどさ。やっぱりオレなんかが王子達の側にいたらいけないんだよ。それにアンナの事は始まりに過ぎないと思う。オレは魔獣だから…」
その時、ぐいっと腕を引かれた。顔をあげると、王子の涼やかな目とぶつかる。
「分からない?ニナはもう俺のモノなんだよ」
「え?」
気づいた時には王子の唇とオレの唇が重なっていた。
庭で青ざめるニナを抱っこして、背中をポンポンと優しく叩きながら「大丈夫だよ」と王子は言った。
そのまま一度王子の部屋に戻り、人化した。もしホワイトタヌキの姿をアンナに見られたらと思うと恐かったのだ。
ソファに座りクッションを抱きしめる。
アンナの怒り狂う恐ろしい顔が、脳裏に浮かんだ。
おじさんの、ぐちゃぐちゃになってしまったパンは、巣穴に帰る頃には無くなっていた。何度も転げ、意識が朦朧としていたから。
「オレって何てバカなんだろう」
はぁっ。と息をはく。オレは少し人間との距離を間違えてしまったのかもしれない。
やはり人間とオレ達では生きる場所が違うのだ。
他の魔物や魔獣も、オレが人間と関わりを持つ事に驚き反対する。
アリエナイと。
基本人間とモンスターは敵同士なのだ。今この瞬間だって殺し合いをしているかしれない。
ギルドの冒険者達だって毎日のようにモンスターを討伐する。
全て分かっていた筈なのに。オレは自分は大丈夫だと心のどこかで思っていたのだ。
人間とも他のモンスターとも上手くやれると。
でも少しづつバランスは崩れていた。もっともっとと人間に近付くオレのせいで。
アンナの事は恐いし、正直二度と会いたくない。
けれどアンナをあんな風にしたのは魔獣のオレかもしれない。
オレさえ、あの森の屋敷に近付かなければ良かったんじゃないか?
「何て顔をしてる?」
はっとして顔をあげる。
王子がドアの前に立つ。いつの間にか戻ってきていたみたいだ。
「あ…王子」
穏やかな目でオレを見つめる王子に、オレはにこりと笑った。
「お帰り王子」
王子はオレの隣に座る。
「ただいま」
オレの頭を撫で、おでこにキスする。ゆっくりと唇を離し、オレの目を見る。
「アンナはいくつかの罪を犯している」
「そう…なの?」
「だからもう、あの屋敷で働く事もなければ、普通の生活を送る事も当分は叶わないだろう」
「そう…なんだ」
そうか。もうアンナに会うことはないのだろう。何となくそれだけは分かる。でもそれとこれとはまた別だよな。
「王子、何だか今日は格好いいね」
小さく笑ってオレを見る王子に何となくへらっと笑い返し、オレは視線を外す。
「城の中ではちゃんとした格好をしろと兄上が煩いんだ。森の屋敷でのオレはだらしない?」
「ううん、そんな事ない。あっちはあっちで格好いいに決まってる!
…ただ王子のこんな格好良い姿見ちゃうと、やっぱり住む世界が違うんだなって思った」
オレなんかが側にいちゃダメなんだって事位は分かるよ。
「王子、オレすっごくお世話になったよね。何にも返せないのが心苦しいくらい」
オレは王子の目を見ないままぺらぺらと話し続ける。
「ありがとう、王子がいてくれ…」
「まるで別れの挨拶みたいだな」
視線を王子に戻す。感情の読み取れない表情をする王子。
「別れ…とかそんなんじゃないよ。ただ、身体も楽になったしそろそろ森に帰らなきゃ」
別れとかじゃない。完全に皆と離れるのは寂しくて悲しい。
けれど少し近すぎたんだ。人間とオレ(魔獣)との距離が。
「ニナを待つ者がいるの?」
「それは…」
そんなのいない。だってオレはぼっちだから。
「いない…けどさ。やっぱりオレなんかが王子達の側にいたらいけないんだよ。それにアンナの事は始まりに過ぎないと思う。オレは魔獣だから…」
その時、ぐいっと腕を引かれた。顔をあげると、王子の涼やかな目とぶつかる。
「分からない?ニナはもう俺のモノなんだよ」
「え?」
気づいた時には王子の唇とオレの唇が重なっていた。
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