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いつもの天真爛漫な笑顔を消して、ぽつりとマリローズが呟いた。

「あ…うん」

「ふぅん…」

気まずい空気が流れる。おそらくこの時点でランデルに恋心を抱いているであろうマリローズ。

現世で恋なんてする間もなければ、そんな相手もいなかった私。
それでも女の嫉妬は怖いというのは分かる。

散々「こいやみ」をやってきたのだから。

マリローズからしたら、好きな相手が他の子に構うのは面白くないし、その相手がレオノールなんて許せない事。

でもマリローズは天使なので、嫉妬というよりは可愛いヤキモチなのである。ちゃんと誤解を解いておかないと。


「…きっと変に責任を感じて、お世話してくれたのよ。さすが一国の王子だよね。相手が私でなくともランデルは気遣うと思うわ」

「ランデルは優しいものね。あーあ、私もランデルに会いたかったなぁ…いつもお勉強で忙しそうなの。あっ、ねえレオノール、レオノールはランデルに刺繍のハンカチは渡せたの?」

「ううん。バタバタしていたからまだ渡せてないの」

あんな事があってバタバタしていたのは本当だけど、マリローズもランデルへのプレゼントが刺繍のハンカチだった為、何となく渡しづらくなっていた。


もはや違うものを用意した方がいいんじゃないかな?手作りじゃなくて買った物とか?

「そうなの?ランデル、きっと喜ぶのに」

「マリローズはハンカチに何て刺繍したの?」

「…私はランデルのイニシャルを刺繍したんだけど、もう駄目になっちゃったみたい」

「え…?」

「でもほんの少しでもレオノールの為になって良かった」

「…どういう事?」

「あっ、こんな事話したらレオノールが気にしちゃうわよね」

「いいの!私の為になって良かったってどういう事?」

「…レオノールが襲われた日、ランデルが私の贈ったハンカチでレオノールの傷口を抑えていたのよ」

あんな薄い布じゃ意味ないのにね?と悲しげに笑ってみせるマリローズ。

なんて事…。驚きとショックで、口を手で覆う。

ランデル…なんで… なんでって少しでも止血しようとしてくれたんだと思うけど…でもよりにもよって…。

それって、私が刺さる瞬間を見るよりトラウマだったのでは?
ランデルの事を想い、頑張ってチクチクと刺繍したハンカチがレオノールの血で染まってしまったのだから。

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