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20 ※残酷表現あり
しおりを挟むハンカチ?何で?
「…じゃなかったの?」
「え?なあにレオノール」
「ブローチをプレゼントしたんじゃなかったの!?」
「ブローチ?何の事?どうしたの、レオノール…」
「…そんな…」
おかしい。ゲームの中だとマリローズはアクアマリンが埋め込まれたブローチをランデルに贈るはずだ。
ランデルはそのブローチを胸辺りに付けようとしたが、あまり高価なモノじゃないから恥ずかしいと、マリローズがランデルのジャケットの下のベストの胸辺りに付けてあげたのだ。
ゲームの世界のシナリオが変わってる。
もしかして…私のせい?
レオノールがランデルにプレゼントしたモノは何?覚えていない。というよりそんなシーンはなかった。
きっと公爵家の娘として高価な物を贈っただろう。刺繍が入ったハンドメイドのハンカチなんて渡さない。
私がマリローズにハンカチをプレゼントするなんて言ったから?
私がレオノールを演じなかったから?
どうしよう。
激しく動く心臓が今にも爆発しそうだ。
まるで、地に足が着いていない感じ。
あのブローチは絶対に必要なのだ。あのブローチがないと…。
ランデルを見る。先程と変わらず淡々とした表情で挨拶に応じている。
少し離れた所に護衛騎士が立っている。
それでも、あの人達では間に合わない。
急いで周囲を確認する。
自分が許せなくなる。レオノールはやらないと決めたのに、このパーティーでの出来事は知っていて静観しようとしていた。
だって結局ランデルはあのブローチに救われるし、マリローズとの距離を一気に縮める大事なイベントのひとつだからと。
でもシナリオは変わった。
これはゲームなんかじゃない。今の私にとっては現実でしかないのに。
動けっ!足!
震える足を一歩前に出す。
「レオノール?」
マリローズが不思議そうな顔をして私の名を呼ぶ。
それには答えず先を急ぐ。
辺りを見回しながら、ゆっくりランデルに近付いていく。
その時、ふらふらとした足取りの男が目の前を横切る。酒臭さに顔をしかめる。
見えたのは真っ赤な顔に虚ろな目。手には果物ナイフ!
こいつ!!!!!
目の前の男を必死で追う。
幼い身体で人をかきわけるのは困難だ。
それでも走る!
今、ランデルを守れるのは私しかいないのだから。
人だかりを無理やりかきわけ、ランデルを見つける。
ほっとした束の間、少し先に着いたアイツが何やら奇声を発した。
「ランデルッ!!!!!」
先の事なんて考えられなかった。
私はランデルの元へ走り、ランデルの事をおもいきり抱き締めた。
すぐに背中に激しい痛みが走る。
一瞬の静寂があった後、周囲から悲鳴が聞こえた。
護衛騎士達が取り押さえたのか、激しい怒鳴り声と男の叫び声が聞こえる。
「レオノール!!」
倒れ込んだ私を支えるランデル。
「…ランデル」
震えながら、今にも泣いちゃいそうな可愛いランデルの頬に降れた。
あーあ、私なんかの血が付いちゃって。
そっとその血を拭う。
その手をそのままに、ぎゅっとランデルの手が重なる。
「ランデル…どこも痛くない?」
「ばかっ!痛いのはレオノールだろ!!」
ランデル、そんな大きな声も出るんだね。
大丈夫。大丈夫だよ。私は痛みに強いからね。
無理やり口角を上げ、微笑んでみせる。
上手く笑えてる自信はないけれど。
ああ、でも意識が遠退いていく。
「…っ!!なんでこんな事…!レオノール!お願い!目を開けて!!」
ランデルの綺麗な涙が、いくつも私の頬に降ってくる。
なんで?
それはランデルが私の大切な推しだから。
ただ繰り返し過ぎていく、辛い辛いあの現実から救ってくれたのはランデル、あなただった。
孤独で何も見出だせない、生きる意味も分からない、もう終わりにしたい、そんな日々。
そんな暗い暗い私の世界にひとつだけ、優しく暖かい灯がともった。
もうこの世界が現実なのかゲームの世界なのか、訳が分からなくても。
私は何度だって、ランデルを守りたいんだよ。
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