深海特急オクトパス3000

夜神颯冶

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永劫回帰の無限円環

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僕が呆然ぼうぜんとその様子を見ていると、
背後からパタパタという足音が、
こちらに向けて駆けてくる音がした。


僕が咄嗟とっさに振り向くと、
そこは誰もいない通路だった。


ふと下から視線を感じ目線を下げると、
そこには僕の横で立ち止まり、
不思議そうに僕を見上げる幼女がいた。


僕はその幼児の顔を見て愕然がくぜんとした。


その少女は先ほど座席の下から助け出した、
首なし幼女だったのだ。


幼女は不思議そうに、
こちらをじっと見つめていた。


まるで異物を見つめるように。



『リリちゃん、廊下は駆けないで下さい』



通路からこれまた先ほどあった看護師が、
こちらに向かって歩いて来ていた。


首の取れたこの子を治療すると言って、
車イスで連れていた看護師。


僕は夢を見ているのだろうか?


それとも治療が成功して、
首の取れた幼女が生き返ったとでも?


幼女は看護師を確認すると、
チラリとこちらを見てから、
看護師から逃げるように再び駆けて行った。


『待って下さいリリちゃん』


子供が連結車両の扉の前まで行った時、
おもむろに扉が開き、
後ろの車両から女性が1人、
こちらに入ってきた。



『リリちゃん!どこ言ってたの!?』



すぐにその女性は幼女を叱るように、
話しかけていた。


『ママ見て』


幼女は何事もなかったように、
窓の外を指差していた。


生命の原初に浮かぶ命。


『お魚』


『仕方ない子ね』


女性は苦笑すると、
一緒に窓の向こう側の深世界をながめていた。


その時、車内アナウンスが流れだした。



【ただいまより深海特急オクトパスは、
 魔の三角海域バミューダトライアングルにさしかかります。

 海底遺跡クリスタルピラミッドが眠る
 海域です。
 
 本船はこれより、
 海底遺跡をご堪能たんのうしていただくため、
 スピードを40キロまで減速します。

 それでは存分に海底遺跡をご堪能下さい】



そのアナウンスが終わると共に、
人がこの通路に集まり出していた。



『皆様ご覧下さい。
 車両の向こう側は深淵しんえんの深海、
 深度マイナス2000メートルの
 深層世界しんそうせかいです』


背後で聞こえた声に振り向くと、
いつの間にか通路に集まった男女に、
看護師が深海ガイドを始めていた。



『このマリンラインはご存じの通り、
 深海に作られたチューブの中を
 進んでいます』


『オクトパスは電車の形状をしていますが、
 線路などは無く動力源は主に帆船に近く、
 進んでいると言いましたが流れるプールの
 ように、中を流されていると言ったほうが
 いいかもしれません』


『深海の外温度は約2℃。
 水圧は約208kgf/c㎡。
 チューブの中の水圧は145kgfです』


『普通水圧は10メートル潜るたびに1気圧
 増えるので、水深2000メートルでは、
 201khfになりますが大西洋では、
 塩分濃度が高いため水圧は上がります。
 これは塩分濃度の高い海水は重いためで、
 おもにグリーンランド沖で固まって氷が
 原因です。
 氷は真水に近いため、海水が凍るときに、
 余分な塩分を排出するためです。
 このため大西洋では塩分濃度が、
 他の海域より高くなっている為です。
 この時冷たく重い塩水は海底に沈み込み、
 海流を作っています。
 このため大西洋の深海は、
 太平洋より若干じゃっかん冷たくなっています。
 
 この海流は約2000年かけて、
 地球を一周します』

『チューブ内の水圧を、
 約140kgfにまで下げているのは、
 チューブに水圧でかかる重量を下げ、
 チューブの耐久性を向上させるためです。

 このお陰でチューブにかかる水圧は、
 200kgfから140kgf引いて、
 約60kgfまで下がっています。
 車両にはチューブ内の水圧140kgfが、
 つねにかかっている事になります』


『人が簡単につぶされるほどの水圧ですが、
 ご安心下さい。
 このオクトパス3000は、
 水圧300kgf/c㎡まで耐えられる
 設計になっています』


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