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過失なき過失

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「神父様は21世紀初頭に流行った、
  今世紀最悪と言われるウイルスを
  ご存じですか?」

神父は少し考え答えた。

「コ○ナ・ウイルス?」

「そう世界中で一億人以上を感染させ、
 第二次世界恐慌を引き起こした
 恐怖のウイルス。
 でもこのウイルス、
 あまり知られてませんが、
 致死率はわずか0.5% 」

神父は疑問を口にする。

「それは治療薬が開発された、
  現在だからじゃないのかい?」

「違いますよ神父様。
  治療薬の無い当時でです。

  この当時、感染者の死亡率は
  16%と言われてましたが、
  実際には気づかずに感染して
  完治していた人が相当数います。

  それでも当時死者が多かったのは、
  感染者の増大による医療崩壊で、
  治療が受けれなかったから。

  治療さえ受けれれば当時でも死亡率はわずか0.5%
  現在は治療薬さえ投与すれば100%完治します。

  それにこの当時、もっと致死率の高い、
  エボラやクリミア、ペストなどもありました。

  エボラの致死率は50~90%
  クリミアは24~88%
  ペストは30~60%あります。

  そうコ○ナは極端に致死率が低いのです。

  では先生ラボニはなぜ、このウイルスが今世紀最悪と
  言われてると思いますか?

  それは人が死なないからです 」


「それに対し22世紀最悪のウィルス、
  レトロウイルスは致死率99%。

  旧約聖書の一夜にして滅んだ町。
  色欲と退廃の町ソドムとゴモラにちなんで、
  こう呼ばれています。

  別名ロトウィルスと。

  天使により選ばれたロトの一族だけが
  生き残った天災さばき

「ではこのウイルスがなぜ、
  ロトウイルスと呼ばれているか
  先生ラボニは、ご存じですか?

  このウイルスが致死率100%でないのは、
  ただ一人生き残った生存者がいるためです。

  当初どこまでも致死率100%の恐怖のウイルスは、
  誰にも知られず消え去る筈だった。 

  最初に私《ロト》に感染さえしなければ。

  ただ一人生き残った私に感染しなければ。

  ウイルスは宿主を殺さず増えるのが生存戦略。

  その意味でレトロウイルスは明らかな奇形児。

  劣等種。

  すぐに重症になり即死亡するレトロウイルスは、
  多くの人間に感染する前に、
  その人の死を持って人知れず消え去る筈だった。

  そうこの劣等種レトロウイルスは、その存在さえ気づかれず、
  最初の感染者の死をもって死滅する筈の
  ウイルスだった。

  天使によって選ばれたロトが現れなければ」

「私はこの世で殺人ウイルスを培養する、
  唯一の保菌者。
  100万人を殺した女。

  私の罪は生きていること」


神父は彼女の話を聞き考えた。

罪なき罪

過失なき過失。

彼女を裁くのは罪ではなく大多数の幸福のため。


「それであなたは最初に、
  自分の罪を認識できないと」


神父のその問いに彼女はさとったように答えた。


「秩序は万人にとっての正しさではなく、
  つねに犠牲を求める」


それはどこまでも救われない答えだった。
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