閉鎖都市

世界の真実

１８

　
低く落ち着いたナレーションの様ような声が、
静かに次の行き先を告つげていた。

ファンデル。
僕はその名に聞き覚えがあった。

東の最果さいはて。

街の周回に張はり巡めぐらされた、
外界げかいと遮断しゃだんする事を目的とした壁。

その周辺しゅうへんに、
世界最大のシティータワーはそびえ建たつ。

街のシンボルであり誇ほこり。

そのタワーが建つ近辺きんぺんをファンデルと言う。

その記憶が重かさなる。

もちろん厳密げんみつにはここは、
僕のいた世界とは異ことなる。

一概いちがいにはあてにならないが。

少女は少し寂さびしげに外を眺ながめたまま、
昔話でも語かたる様ように話し始めた。

『昔々、未来に希望が溢あふれていた時代。
　そこにはその街のシンボルとも言える、
　タワーがそびえ建っていました。

　天にまで届く様に、
　雲をも突き抜けそびえ建つタワー。
　その名はエンペスト。
　一夜にして消え去った幻のタワー。

　人々の心の中にだけ残る残像ざんぞうエンペスト』

統一言語とういつげんごで、
希望と言う意味を持つエンペスト。

同時に人工言語そのものもさす。

人工物の希望か。

パンドラの箱に、
最後に残っていたのが希望だと言うが、
一説いっせつでは、
９９の災わざわいが出たあと、
最後に残っていたのが、
未来を告つげる災わざいの兆きざしだったと言う。

災いの兆しを失った事で人は、
結果的に未来に希望を持てたのだ。


倒壊とうかいした希望のシンボル。

それが失うしなわれた世界だと、
言っている様だった。

失うしなわれた楽園の住民である僕を、
少女はどんな気持ちで見ているのだろうか。

ふと不安になる。

僕は少女の隣となりに腰掛け、
少女の横顔を眺ながめた。

寂寥せきりょうに染そまった瞳。

張はり積つめた肌。

感情を遮断しゃだんした様ような眼差まなざし。

そこからは何も伺うかがえない。

それがかえって、
少女の抱える闇の深さを連想れんそうさせた。

僕は思わず、
少女のか細い肩を抱だき寄よせたい、
衝動しょうどうにかられた。