ゴミ箱の中の天使

夜神颯冶

文字の大きさ
上 下
1 / 1

 天国に続く道

しおりを挟む
 
  僕どうしてママがいないの?

  僕どうしてここにいるの?

  僕どうして尻尾しっぽがはえてるの?

  ぼくどうして???


その子が生まれたのは、
路地裏ろじうらのゴミ箱の中だった。

その子が初めて見たのは、
ゴミ箱の中から見上げた、
けるような青空だった。


その子が最初さいしょ最後さいごに見上げた空だった。


いつのまにかぼくは眠っていた。

その子が見た夢は、
ふわふわの布団の中で、
ママにかれなめられながら眠る
幸せな夢だった。

ママどこにいるの?



どこか遠くで、やさしい声が聞こえてきた。


「かわいい。
 よしよしいい子いい子」


やさしい声に僕が目覚めざめると、
そこは夢の続きがあった。

その子の夢は現実げんじつになっていた。


「あっ!目をました。

  かわいい 」

ぼくは女の人にかれ、
背中をなでられていた。

ぼくは、
そのやさしい心地よさにられながら、
その人を見上げ思った。


ママだ。

ママが、むかえに来てくれたんだ。


ぼくは、しあわせな気分きぶんで、
その心地ここちよさに目を閉じた。


ママもうどこにも行かないでね。

ママ・・・


それから僕は閉じられた箱の中で、
らすようになった。

そこは安全な場所。

あたたかい場所。

なかいっぱいごはんが食べれる場所。

そこはぼくにとって天国だった。


でも夜はきらい。

夜はさぴしいから。

ママがいつも夜になるといなくなるから。


一人はさぴしいよ。

こわいよ。

くるしいよ。

寒いよママさむいよママ


ママ・・・


でもママはくる日には、
まんめんの笑顔えがおであらわれて、
ぼくをきしめてくれるんだ。


ぼくはそのとき、
ママを見つめていつも言うんだ。

心の中で言うんだ。

もう、どこにも行かないでねママ。


ぼくはその時にはすっかり不安ふあんわすれ、
目をつむって、
しずかにそのあたたかさをただようんだ。

ママ、ずっとそばにいてね。

好きだよママ。

ぼくはママの手をなめて、
ママの香りを心のなかに吸収きゅうしゅうする。

ずっと一緒だよママ。

ママ・・・

そしてゆっくり温かさにつつまれたまま、
眠りにつく。

ママ・・・

ある日、ママがとっても悲しい顔をして、
ぼくをきしめた。

いつもよりいっぱいいっぱい抱きしめた。

ぼくは幸せだった。

ずっともとめてられなかったものが、
そこにあったから。

それをなんて言うんだろう。

ぼくはママがなんで泣いているのか
わからなかった。


「ごめんねララ。
 ごめんね。ごめんね」


そう言って泣くママの言葉は、
小さな僕にはわからなかった。

ただ幸せだけがそこにあった。

ママは僕のために泣いてると思った。

ママ大丈夫だいじょうぶだよ。

ぼくママのためなら、
どんないたいこともがまんできるよ。

だから泣かないでねママ。

ぼくはママの顔をなめた。

ママ泣かないでよママ。

ママが泣くと僕も悲しいよママ。


「そろそろ時間だよ」

そう言ってママの後から、
だれかかがたっていた。


「おねがいです。
 あと一日だけまってもらえませんか?
 かなら里親さとおやを見つけてきます」


「そう言われてもね、規則きそくだから。
 その子だけ特別扱とくべつあつかいは
 出来ないんだよ」

二人は何か言い合って、
ママはぼくをとても悲しそうに見つめた。

「ごめんねララ。
 ごめんね、ごめんね」

そう言って僕をなでてくれるママは
とっても温かくて、僕はママのためなら
何でもすると思った。
ぼく、だいじょうぶだよ。

どんな事でもたえれるよ。

だってずっとしかったものは、
すべてママがくれたんだから。

だからねママ。

泣かないでママ。

ぼくのために泣かないで。

幸せだよママ。


     【保健所殺処分室】
 
 
そう落書らくがきされた見知らぬ部屋へやに、
ぼくは入れられていた。

ほかにもたくさんの兄弟きょうだいが、
そこにはいれられていた。

ぼくは扉の外で僕を見つめるママに言う。

まだ夜になってないよ?

ママもっと一緒にいたいよ。

ママ、もっと抱きしめてよ。

もっと、なでなでされたいよママ。

ママはそんな僕を見つめたママ泣いていた。

ママどうして泣いてるのママ。

泣かないでママ。

ぼく、がまんするよ。

だから泣かないでママ。

そうしてる間に、
なんかあたりの空気が、
くさっていくようないやな臭いがした。

兄弟達きょうだいたちつかれたように、
つぎつぎにたおれた。

じょじょに息苦いきぐるしくなって、
あたりの景色けしきが回転を始めて。

それでもぼくはまだ休みたくなくて、
ママを見つめ続けた。


くるしいよママ。

たすけてよママ。

だんだん体から力が抜け寒くなる。

こわいよママ。

そばにいてよママ。


 ママ・・・


息苦いきぐるしくて
だんだんと何も考えれなくなって


全身を襲う痛みも   さむさも

だんだんと感じなくなって


ぼくはうすれる意識いしきの中で、
きあげられるのを感じた。


ぼくは眠る瞬間、
やさしく ぼくを抱きあげ
抱きしめてくれるママがいた。

ママはぼくを見つめ、
やさしくほほんでいる。


助けに来てくれたんだママ。

大好きだよママ。

ずっと一緒いっしょだよママ。


 ママ、ママ・・・
 
 
 
 
                おしまい

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

閉鎖都市【ナビ用語解説】

夜神颯冶
ライト文芸
閉鎖都市 【ナビ用語解説】 自律型高演算ペットロボット【スピット】ロットナンバーXP3567、 通称ナビ。 異世界で産み出せれた僕が、ノワールと共に幾多の世界を旅し、 そこで目にしたテクノロジーを解りやすく解説しています。 並行世界【閉鎖都市】に出てくるテクノロジーを、ナビが解りやすく解説しています。 エブリスタ本編はこちらです。 閉鎖都市[link:novel_view?w=24976622] ⬇️小説家になろう|本編はこちらです。 https://ncode.syosetu.com/n7688eo/ 2020年 05月10日 12時14分 ▲ページの上部へ ホーム|ログアウト プロフィール[link:photo_view?w=25048288]

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...