蒼き臨界のストルジア

夜神颯冶

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蒼き臨界の果てに

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そんな視線に気がついたのか、
おもむろに彼女は振り返り、
僕の目を見つめ続けた。


じっと。ただ黙って。


まるでその心の中をのぞき込もうとするように。


僕はそんな彼女を見つめたまま、
その本心を隠すつもりはなかった。


僕が彼女を好きだと言う本心を。


僕は彼女を愛していると言う本心を。


例《たと》えそれで嫌われようと。
なにを失う事になろうと。
ただ伝えたかった。


君を愛している人がいると言うことを。


愛していた人がいたと言うことを。


君は世界で一人じゃないと言うことを。


彼女は無表情のまま、
そんな僕から目線を離すと、
バイザーをつけて外のイルカに話しかけた。


『ピーピー、キーキー、少しの間ごめんね』


彼女はそう言うとバイザーを切り、
操縦席に置いて何かのスイチを下ろした。

途端とたんに窓は、
スモークがかかったように真っ黒になり、
外の景色は見えなくなった。

ブラウン管が切れたように唐突とうとつに、
遮光しゃこうカーテンがかかったように、
全てを包み隠していた。


彼女は僕のひざの上で振り返り座り直す。


彼女の小さなお尻が、
ぺたんと僕のひざの上でつぶれ、
僕達は向い合わせで座っていた。


彼女は僕を見つめ、
僕は彼女を見つめ続けた。


そこに言葉はなかった。


ただ無言で語り合った。


彼女の瞳の奥の、
どこまでも深い深海の中に僕は沈み、
溺水できすいしていった。


青い果実をみ取るように。


どちらからともなく二人は誘われるように唇を重ねていた。


僕は彼女の小さな体を抱きしめキスをした。


それはたがいの孤独こどくめるようなキスだった。


互いの温もりを求めるようなキスだった。


孤独こどく孤独こどくが出会い、
それは必然の成り行きだった。



  決められた運命だった。


  決められた定めだった。


  決められた二人だった。



互いにけたものをめ合わせるように、
二人はいつまでもむつみあった。


 重なりあった。


 つながりあった。


 求めあった。
 
 
たがいの孤独こどくからつむがれる会瀬おうせは、
何処どこまでも透明で不器用で、
それでも互いを求め、
決して離そうとはしなかった。


これまでの孤独をめるようにおぎなうように、
二人は何処までも貪欲どんよくに互いを求めあった。


 むさぼりあった。


彼女の小さな温もりが僕の全てを満たし、
体の奥にまったうみが全て出てゆくように、
悲しみの全てが浄化されてゆくように、
ただ幸せの余韻よいんの中で僕は彼女を感じ、
彼女は僕を感じていた。



その瞬間、世界の全ては消え去り、
ただ二人の温もりだけがそこにはあった。



悠久ゆうきゅうの時間に溶け込むように、
二人のシルエットはいつまでも、
重なりあっていた。
 
 
 
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