蒼き臨界のストルジア

蒼き臨界の果てに

２８

　
　
どこか大人びた彼女の瞳が、
深海の奥の綺麗な幻想げんそうを映していた。


『カテゴライズされた言葉が感情を表す時、
　それは必ずしも、
　本当の気持ちを表しているとは言えない。

　なぜなら感情は言葉であらわせるほど、
　単純な一方通行の記号ではないから 』



ふと彼女がそんな事をもらした。



『昔。
　昔、そう言ってた人がいたの』


彼女にそう言った人が、
誰なのかはわからない。


でも１つわかった事もある。


彼女にそう言った人は、
きっと彼女を愛してたんだと。


彼女の清すんだ瞳めは、
海吹雪マリンスノーの中を楽しげに舞うつがいのイルカを
いつまでも映し続けた。


彼女の歩んできた人生を優しく溶かすように、
二頭のイルカはいつまでも舞い続けていた。


僕はそんなイルカに少し嫉妬しっとし、
そして感謝した。


彼女を守ってくれてありがとう。


それは生命と言う意味じゃない。
イルカ達が守って来たのは彼女の心なのだ。

だからこそ彼女はイルカを誰よりも愛し、
イルカは彼女を誰よりも愛した。

そこに新参者しんざんものの自分が入り込む余地よちなど、
無いように思えた。


それが微笑ほほえましくもあり、
妬《ねた》ましくも羨うらやましくもあった。


僕は彼女の手を引くと座席に座り、
彼女を引き寄せ膝の上に乗せた。

彼女はなんの抵抗もなく僕の膝の上に座ると、
窓の外を宇宙遊泳するイルカ達を眺ながめた。


深海の銀河が小さな僕達を包み込むように、
優しく漂ただよっていた。


自然の大きさは、
時に傷ついた小さな心を包み込み癒してくれる。


僕の膝の上で、
同じようにその光景を眺みつめる彼女を見て、
そう思った。