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『今日も学校で猫被ってきたのかよ』
『うん。てか、いつもだって』



 今日も俺は学校から帰ってくるなり、部屋の床に鞄を放り投げてはベッドに沈み込み、LIMEのトーク画面を眺める。
 突然だが、俺、入崎柊いりさきしゅうは学校で猫を被っている。


『俺が素で居られる人なんて、斗亜しかいないから』
『それでいいだろ』

 ピコン、という通知音と共に流れてきた斗亜からのメッセージ。
 今俺がLIMEしているのは、幼馴染の 桐生斗亜きりゅう とあ
 斗亜とは通う学校は違うけど、家がすぐ隣の幼馴染で、唯一、人との関わりが大の苦手な俺が素で居られるヤツ。
 まあ、小さい頃からの相棒みたいなヤツだ。


『お前、高校入ってからずっと猫被ってるって言うけど学校でまじでどんな感じでやってんの』
『大人しくただ一人座ってるだけ笑 完全なる陰キャ笑』
『俺といる時はクッソうるせえかまちょ野郎なのに?笑 柊のクラスのヤツらにお前の素のこと言いふらしてやろうか笑』
『いやそれはやめろよ!』

「柊~ ご飯出来たわよ~」


 スマホの画面に向かって口角を上げながら指を動かしていると、下の階のリビングから母さんの声が聞こえた。
 時刻はもう18時30分を回っていた。斗亜と話していると時間が瞬く間に過ぎて行く。
 今日は華の金曜日だからか、尚、斗亜との会話が弾んでいる気がして嬉しいし、沢山話してしまっていた。


『ごめん、晩御飯だからまた後で!』
『おう』


 名残惜しさはあったものの、俺は一度スマホを手から離し、リビングへと向かった。



「ご馳走様でした」
「はーい。あ、ねえそう言えば柊ったら聞いた!?斗亜くんの!」
「んえ?」

 俺は晩御飯を食べ終わり食器を片付けようと席を立つと、一緒に晩御飯を食べていた母さんがいきなり目を大きくして言った。


「あら、聞いてなかった?さっきまで斗亜くんとLIMEしてたんじゃないの?」
「うん、してたよ」
「斗亜くん、柊の学校に転校してくるって」
「…え、はっ?」


 待って、理解が出来ない。
 衝撃の事実を口にしたと言うのに、今の母さんはなんてこと無い顔をしている。 


「え…?あ、え?」
「斗亜くん絶対三園の制服似合うわよね~!」
「ちょっ、え、何も聞いてない」


 母さんはその場にただ置いていかれているような俺に気付いていないかのように話を進めている。
 え、あの斗亜が?俺と同じ高校?
 斗亜って、あの、斗亜だよな?
 夢か何かか、と俺はつい自分の腕を抓ってみる。


「まあとにかく、後で斗亜くんに聞いてみなさい!多分そんなすぐに転校してくるわけではないと思うし、後々伝えようと思ってたのかもね?」
「わ、分かっ、た…」


 俺は速攻で食べた食器を片付け、速攻でスマホを開く。


『ねえちょっと!』
『ん、てかお前飯食うの早くね』
『当たり前でしょ!! 斗亜、なんで三園に転校してくるってすぐ言わないの!!』
『え何でバレてんの』


 やはり、母さんの言うことは本当だった。
 俺はつい深い溜息をつく。



『母さんから聞いた。ねえ、これって本当のことなんだよね…?』
『あー…本当。柊驚かせたかったんだけど。笑 俺、猫被りの柊見るために転校するから笑』
『はあ!?』
『バカ、嘘』


 何なのこいつ…!
 こっちは気が気じゃなくて今も心臓が出てきてしまいそうな程に跳ね上がってるのに。
 なのにそっちはこの謎の余裕感。
 常に俺は学校では一人の単独行動が当たり前だった。
 なのに突然、幼馴染の斗亜が同じ学校になんて。
 …こっちは気が気じゃないっつーの。今だって夢か現実か分かってないのに。


『初登校土日明けだから笑 心の準備しとけよ』
「っえ!?」

 俺は驚きのあまり狼狽する。
 そして、後に画面に向かって声を出してしまう。

『土日明け!?二日後じゃん!?』
『うん笑 ギリギリまで言ってなかったし笑 じゃ、俺晩飯食ってくるからじゃーな』

 そして斗亜は驚きを隠せないままの俺を置いて、会話から居なくなってしまった。
 俺はスマホの電源をプツリと落とし、布団へ伏せた。
 腕で自分の顔を隠す。

「…っとに、なんなの…」


 そして、俺は部屋の天井を見つめる。


「…これからは同じ制服で同じ学校に一緒に行ける…ってことか…」


 斗亜の高校は学ランだが、俺の高校はブレザーだ。斗亜が着るブレザーなんて、めっちゃカッコイイんだろうな…。
 つい勝手に想像を膨らませては、表情を弛めてしまう。


「って、俺気持ち悪!何ニヤニヤしてるんだ…」


 俺は我に返り、ガバッと体を起こした。
 …LIMEも終わって、違うことしててもいいはずなのに、ただボーッと天井向いて斗亜のことを考えてしまうのは何故なのだろう。


「…そろそろお風呂入ろ」


 この答えを知る日は近いのかもしれない。
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