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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【6−9】
しおりを挟む「なぁなぁ、白藤ちゃん。宮さまの母ちゃんさぁ。パッと見、花宮ちゃんとそっくりだったなー。そっくりすぎて、俺、ひそかにびっくりしてたんだぁ」
「ふふっ、そうね。お顔立ちもだけど、身長も萌々ちゃんと同じくらい小柄でいらしたから、姉妹みたいに思えたわよね」
そうして、おばあ様方と名残惜しくお別れした私たちは今、中庭の一番広いスペースへと向かっている。小さな舞台が端に設置されたそのスペースには、模擬店が『コ』の字型に長く連なっていて。
「白藤ちゃん、もうすぐだよ。目印は、黄色地に赤で『やきそば』って、ひらがなで書いてある暖簾だよー」
「えっと、えっと……黄色の地に赤で『やきそば』ね? うーんと……」
「そうそう。そんで、バスケットボールが横に描かれててぇ……」
「あっ、あったぁ! 武田くん、あれでしょ? バスケ部の屋台!」
見つけたわ。武田くんが教えてくれた通りの暖簾がかかった模擬店を。
私たちの、もうひとつの目的地。それはバスケ部のブース、『やきそば屋さん』。今ちょうど、奏人が当番で焼きそばを調理中、のはず。だから――。
「武田くん、いよいよね!」
「おうよ、白藤ちゃん。さっ、行くぜ!」
「うん!」
武田くんとふたりで、『突撃! バスケ部のやきそば屋さん!』をサプライズ決行するのよっ。
「たたっ、武田くん!」
「白藤ちゃん!」
――ガシッ
意気揚々と、バスケ部の『やきそば屋さん』に近づいた私たち。 屋台の手前で立ち止まり、そこで、がっしりと手を繋ぎ合っていた。
「かっ、かっこいいーっ!」
黄色地に『やきそば』と赤で書かれた暖簾の下。大きな鉄板の上で起こし金を振るい、焼きそばを豪快に炒めてる人から視線が離せない。
近づきたいけど無理。かっこよすぎて無理。手前で、ぴたりと足が止まった。
「何あれ、すっごい破壊力! ねっ、武田くん」
「マジか土岐。マジすか宮さま。花丸かっけーじゃん! ふたり揃って、最高かよ! マジ堪んねぇな、白藤ちゃん」
「うんうん!」
私がメインで見てたのは奏人だけど。奏人の後ろで、超スピードでキャベツを切ってる煌先輩の姿ももちろん見えてる。
だから、ふたりともを褒めて興奮してる武田くんの手を握る力を、より強めて同意した。
「ねぇ、武田くん。ああいうカテゴリーをなんて言うんだったかな。ほら、何とか系、的なアレで。えーと、『目がテン』じゃなくてっ……」
「白藤ちゃん、それを言うなら『ガテン系』じゃね?」
「それそれ、ガテン系! 頭にタオル巻いてるだけで、なんであんなにカッコいいのかな? あと、お揃いで着てるTシャツがラブリーなのが、ギャップ萌えよ。私、どうしよう!」
「ふふふふっ。そのギャップ萌えの仕掛け人は、何を隠そう、俺なんだなぁ。あれは『もちもち山の敏光様』ってキャラクターのTシャツで、俺が準備したんだ。めちゃ可愛くてインパクト大、だろ?」
うんうん、すごいインパクトよ。袖を肩まで捲って、たくましい腕を露出させてるのに、ラブリーなキャラTをさらりと着こなしてるのよ。
しかも無表情で、というか真剣な表情なんだもん。美味しさ、百万倍よ。
「武田くん、ありがとう。グッジョブ!」
「げへへへっ。ギャップ萌えメンズで集客率ダントツを目指す陰謀、もとい、良識ある作戦なんだぜっ。有馬キャップに進言したら、即、オッケーもらえたんだ」
「じゃあ、有馬キャプテンさんにも感謝しなくちゃ」
同士と繋ぎ合った手を、さらにぎゅっと強く絡め合った。
そして、武田くんがアライグマだと説明してくれた『もちもち山の敏光様』Tシャツを身につけた奏人をガン見する。『突撃! バスケ部のやきそば屋さん!』のサプライズ決行のことを今更ながらに思い出したけど、もういい。
だって、『ガテン系タオル男子』最高! 突撃は別にしなくていいから、このまま遠くからずっと眺めてたいわ。
「はっ! そうだ、武田くん。写真!」
「おうよ、記念写真だ。白藤ちゃん!」
そうだわ。記憶に刻み込むのもいいけど、記録にも残しとかないと。
もう脳裏にバッチリと刻み込まれてるけど、のちのちのためにも、記録は大事よねっ。
「写真、写真っ」
すちゃっとスマホを取り出し、カメラを起動。ズームアップをする。屋台の前に並んでる女子の皆さんの隙間から、奏人の姿を狙った。
「隠し撮りして、待ち受けにしなくちゃっ!」
「隠し撮りして、待ち受けにするんだっ!」
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