キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】

冴月希衣@商業BL販売中

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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】

いざよう月に、ただ想うこと【3−7】

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「そうそう。さっき言いそびれてたんだけど。涼香に気をつけてもらいたいことがね、ひとつあるんだ」
 到着したバスに乗り込み、空いていた最後尾の座席に並んで座ってから少し経った頃、隣から柔らかな声が飛んできた。
「気をつけること?」
 何かしら?
「うん。図書室で棚から本を取る時にやってた、あれ。あれだけは、今後、控えてほしいな」
「本を取る時の、あれ?」
 んん?
「かなり無防備に足を上げてただろ? 人前で。あれのことだよ」
 あ、手が届かない棚に、片足を上げてピョンと伸び上がった、あれのこと?
「涼香。高等科になってから、制服のスカート丈が格段に短くなってるだろ? その自覚ないの? スカートの内側がほぼ見えるくらいまで裾が跳ね上がってたんだよ? 俺しかいなかったからいいけど、人前であれは駄目だろ?」
「す、スカっ……見えっ……ええぇっ?」
 奏人にしては珍しく疑問系の連続で畳みかけるように言い募られて、返す言葉に思いっきり詰まった。

 というか、最後! 『俺しかいなかったからいいけど』って言ってるけど、どう良かったの?
 じゃあじゃあ! 奏人には見えてたの? 『スカートの内側がほぼ見えるくらい』って、どれくらい? 何がどれくらい?
「う……あ……き、気をつけます。これからは、ほんとに気をつけます。自覚持ちますから。ごめんなさい」
 だけど、声色は柔らかいけど、お顔がいつもの無表情な奏人には聞きにくくて、今後は気をつけることを伝えるだけが精いっぱいだった。
「ん。高等科の制服を涼香がとても気に入ってることは、俺もちゃんとわかってるんだよ? だから、こんなうるさいことは本当は言いたくないんだけど。あんまり無防備だったから、つい、ね」
「ううん。私が普通に気をつけてればいいことなのに、奏人に言わせちゃってごめんなさい」
 お顔はいつもの無表情だけど、声色はとっても優しい奏人だから、本気で申し訳なくて身を縮めて謝った。
 そうだった。奏人はスカート丈を短くしてても、バンドゥビキニを着てても「可愛いね」って褒めてくれる、心の広ーい彼氏なのよ。
 クラスメートの女子の中には、可愛くしたいのに彼氏さんにブチブチ文句を言われるのよーって愚痴を言ってる子だっているのに。奏人は一度もそんなこと言わないんだから、制服でピョンってジャンプするのをやめるくらいお茶の子さいさいだわ。

「あ、そうだ。学園祭の二日目。今年も一緒に回ろうね」
 お茶の子さいさいな決意を固めた私に、ふと思い出したような口調で、奏人が学園祭のお誘いをしてくれた。
 あ、そうそう。それ、私もお話ししようと思ってたのよ。
 中間テストが終われば、各クラスは学園祭の準備に取りかかる。いろいろと制限があった中等科と違って、高等科の文化祭は何もかもが大掛かりで本格的。今からすごく楽しみなの。
「今年はクラスも違うし、模擬店や出し物の担当もあるだろうけど。涼香の休憩時間に俺が合わせるから。だから今年も一緒に、ね?」
 柔らかな声色が甘い色を宿した声に変わり、大好きな黒瞳にじっと見つめられた。
 無理をしてでも『私と一緒に』と言ってくれる奏人の気持ちに、じわりと胸が温まっていく。
「うんっ! 一緒がいい。私も、奏人と一緒に楽しみたいもん。お互いに時間のやりくりして、一緒に過ごそうねっ」
 そして、そんな風に私を温めてくれる優しい彼氏だけに無理をさせるわけにはいかない。だから、こう伝えた。
 奏人と楽しい時間を過ごしたいのは、私も同じ。無理をしてでも、その時間を作りたいと思うのは、私も同じ。
 それなら、そのための努力を、私もしなくちゃ。
 奏人と同じだけの気持ちを私も返したい。だって、それがカレカノよねっ。


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