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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】

いざよう月に、ただ想うこと【3−5】

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「……ひどい」
 小さく呟いた声が、色づき始めた木々の、カサカサという葉ずれの音に重なっていく。
「ごめんね?」
 その私の声に、神妙な声色で謝罪の言葉が頭上から落ちた。「反省してるから、許して?」って言葉が、それに続いたけど。チラリと横目で見たその人は、申し訳なさそうに眉を下げたりしてるけど。
「知らないっ」
 私は唇をちょっと突き出して、ぷいっと顔を背けた。

 奏人なんて、知らない。この人、絶対に反省なんてしてないもん。
 その証拠に、私が借りた本をぱらぱらと開いて「ねぇ涼香。土方歳三はともかく、甲賀源吾のどこを気に入ってるの?」なんて、呑気に話題転換してるんだもの。
 だから、「バス、早く来ないかなぁ」とだけ返した。
 残念ながら、奏人とふたりきりのバス停のベンチからは、身を乗り出してもバスは見えなかったけれど。ちょっとした仕返しのつもりで、無視したの。
「ふふっ。まだ怒ってるの? 本当に反省してるのに」
 ええ、そうです。怒ってます。そして、あなたは絶対に反省してません。

「まぁ、図書室でのあれは――」
 な、何かしら? 私が悪いとでも言うの?
「俺が悪かったよね。完全に」
 ……え? 反省、してた、の?
「涼香が怒ってる理由、わかってるよ。キスの途中のあれだろ?」
「そっ、そうよ! あれ! めちゃめちゃ恥ずかしかったんだからっ!」
 バスが来るまで無視するつもりだったけど、奏人の言葉に思わず、その腕を掴んで叫んでいた。
 そうよ、そうよ。ほんとに恥ずかしかったんだから!
「うぅっ、消えてなくなりたいぃぃ」
 奏人が言った『キスの途中のあれ』が、まざまざと思い出された。
「でも大丈夫だよ。俺の背中と本で隠れてたから、涼香の顔は見られてないよ……たぶん」
「『たぶん』って、つけてるじゃない! 奏人だって気づいてるでしょ? キキっ、キスしてるとこ、高階くんに見られたってこと!」
 はっきり聞こえたもの。
 キスの途中、私たちがいた書棚に足を踏み入れてきた人がいた。その気配に、ビクッとした時。『あ……悪い』って声がした。
 その人はすぐにいなくなったけど。書棚の向こう側の通路で、『土岐、マジで見境なしだな』『あぁ、白藤さんも気の毒に』って、一色くんと話してる声が聞こえてきてたのよっ!
「大丈夫、心配要らないよ。アイツらは言いふらすようなヤツらじゃないから。だから、そんなに怒らないで」
 ちっがーう! 私が言いたいのは、そのことじゃないのよ。
 ふたりのその会話がしっかりと聞こえてきてるのに、さらにキスを深めてきた奏人。あなたのことを突っ込みたいのよ!


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