キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】

冴月希衣@商業BL販売中

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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】

いざよう月に、ただ想うこと【3−4】

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「……本は、選んだ?」
「え? あ、まだ」
 数瞬、目を見開き、何か言葉にでも詰まったように動きを止めた奏人が、低く問いかけてきた。
 それで、ぼうっとしてた私は、ずっと奏人だけを見てて本の物色をしてなかったことに気づいたから、慌てて書棚に顔を戻したの。残念、もっと見つめていたかったなぁ、なんて思いながら。
「えーと、これとぉ……あっ、あれにしよっ。あれ? 届かな……」
「手が届かない時は言ってって言ったろう? これ?」
 背伸びしたら取れるかなぁと思って片足を上げてピョンと飛び上がったところで、横に来た奏人が目当ての本をすっと棚から引き抜いてくれた。
「あ、ありがと」
「ん。これだけでいいの? 他にはない?」
「うん、大丈夫」
「『飛鳥~天平時代の仏教美術』か。文化史用の資料だね。ん? 『土方歳三と甲賀源吾』? ねぇ、涼香。試験勉強のための資料本を探してるんじゃなかった? このふたりって幕末の……」
「あっ、そっちは趣味のほうで!」
「趣味?」
「趣味のほうで!」
「あ、そう……わかった。じゃあ、借りるのは二冊だね」
「うんっ」
 私が借りる本を見て、一瞬、眉をひそめて表紙タイトルをじっと見つめた奏人だったけれど、特にそれ以上は何も言わず。それを持ったまま黙って手を繋いできたから、一緒に歩き出した。
 うふふんっ。ふふんっ。中間テストが終わったら読むんだぁ。土方さんと甲賀さんのご本っ。

 ……ん? あら? 
「奏人? あの、方向が……」
「しーっ。静かに。ほら、こっち来て?」
 でも、その行き先は図書委員さんのいるカウンターじゃなくて、奥まった書棚の隅。そこに、強引に背中を押しつけられた。
 驚き、見上げれば、目を細めた、とろりとした視線が私を射抜く。
「んっ」
 すぐに、唇が塞がれた。
「……っ、かなっ……」
 ここ、図書室!
「あ……やっ……んっ」
 やだ。なんで?
「んっ……かなっ……やっ」
「涼香」
 あごを持ち上げられ、深い口づけを受け入れながら、『ここは嫌』だとイヤイヤをすれば。絡ませていた舌を引き抜いたその人が、低く私の名を呼んだ。目が細められ、その口元には蕩けるような笑みが乗っている。
「大丈夫だよ。ちょっとだけだから」
「ぁ……っ」
「ほんの少しの間、涼香を感じたいだけなんだ。だから、大丈夫」
 何が『大丈夫』なのか、全然わからない。
 口内をまさぐって翻弄してくる熱い塊にぼうっとさせられて、理解力なんて残ってないから?
 でも、自分が押しつけられてる書棚の向こう側で誰かが話してる声は、ちゃんと聞こえてる。
 ここは学校で、図書室で、周囲には他の生徒がいる。つまり、人前なのよ!
 だから、黙ってイヤイヤを繰り返す。

「ふっ……涼香?」
 そんな私の頬を撫で、密やかに笑った奏人が片手を上げた。
 その手には、本が二冊。私が選んだ本を縦に捧げ持った手が、顔の横に近寄って来る。
「恥ずかしいなら、こうして隠してあげる。でもね――」
 深みを増した黒瞳が私を絡め取り、ゆらりと妖しく揺れていく。
「静かにしてないと、誰かに気づかれるよ?」
 そうして、つうっと下唇が舐められ、吐息がそこに乗った。
「ほら、舌出して?」


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