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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【2−4】
しおりを挟む「おばあ様。これ、私が作ったんです」
紫陽花と菊に見立てて折り紙で作った、ふたつの薬玉《くすだま》。おばあ様のために作ったそれを、笑顔で差し出してくれた優しい手のひらにそっと乗せる。
帰り際にお渡ししようと思っていたけど、おばあ様がもう少し私といらいと、当初の予定よりも長くお庭にいらっしゃれることになって。それで、薬玉を見ていただいて、そのお話をすることにしたの。
なぜかちょっと険悪な雰囲気になってた奏人と煌先輩は、私が「どうして言い合いみたいなことしてるの? さっきみたいに仲良くしてる二人が好きなのに」って聞いてみたらピタリと口を噤んで、花宮先生が買ってきてくれたコーヒーを飲みながらまた三人でお話を始めた。なんだかんだ言って、気が合うみたい。
「まぁまぁ! 綺麗ねぇ。すずちゃん、上手に作ったわねぇ」
「あ、あんまり上手じゃないんです。こことか、ちょっとだけ曲がってしまって」
喜んでくださるのは嬉しいけど、お手本と同じようには作れなかったから、あまり褒めていただくと恥ずかしい。
「いいえ、とても上手よ。私のお部屋に飾るわね。ありがとう」
おばあ様を常に見上げられるよう、お話しする時は必ず車椅子の横にしゃがんでいたけれど。優しい笑顔で見おろされて、あたたかな気持ちで胸がいっぱいになった。
「すずちゃんの今日のお洋服、この紫陽花とお揃いね」
「あ、実はこれ、ちょっと意識して選んできたんですよ」
車椅子に座っておられるおばあ様と話しやすいようにと、ミニのフレアーキュロットを選んだ。
赤と紺のチェック柄のキュロットに、シフォンのバルーンブラウスの組み合わせは、実はこの秋のお気に入りだ。
だから余計に、ブラウスの袖口の刺繍が紫のお花模様なのに気づいてもらえて、嬉しい。
煌先輩にキュロットの短さを注意されちゃったけど、おばあ様が褒めてくれたからプラマイゼロだと思うことにするわ。
「ねぇ、すずちゃん。この薬玉、お部屋じゃなく、お店に飾ることにするわ。とても綺麗だから、お客様も喜んでくれるだろうし。だから今度、色の違う薬玉も作ってくれる?」
薬玉を手にしたおばあ様からの頼み事のお言葉。
「あ、えと……」
今日は、千葉のお店の話題が出ないな。でも、もし出ても、ちゃんと普通に対応しなくちゃ、と思っていたけれど。駄目な私は、ちょっと反応が遅れてしまった。
「花宮さん。『違う色』というと、何色がいいんですか? お好みの色を僕らに教えてください」
「そうねぇ。ピンクと白の組み合わせと、紫と青の組み合わせがいいかしら」
「ピンクと白に、紫と青ですね。わかりました。――だそうだよ、涼香。作れる?」
「あ……あ、はいっ。頑張って作りますねっ」
私が言葉に詰まったぶん、すぐ後ろでコーヒーを飲んでいた奏人が隣にきて代わりに尋ねてくれた。
そして、おばあ様のお好みの色を復唱して私を振り返った瞳に、私への気遣いの色を見て。それで、慌てて気を取り直した。
「涼香ちゃん。おばあちゃんのリクエストの薬玉を作る時、私も一緒に作っていいですか? それ、すごく綺麗だから、私にも作り方を教えてほしいです」
「あ、うん、もちろん。私も萌々ちゃんが一緒に作ってくれると嬉しい」
「ありがとう。あのね、おばあちゃんは赤とオレンジ色の組み合わせも好きなんですよ。ね? おばあちゃん?」
花壇のお花を指差して、色の組み合わせの話を始めた萌々ちゃんとおばあ様から一歩引いて、隣に立つ奏人を見上げた。
さっきと変わらない優しい眼差しと目線が絡んで、自然と口元がほころんでいく。
予め、おばあ様の状態について話してたから、咄嗟に助け船を出してくれたんだよね?
ありがとう、奏人。
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