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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【1−2】
しおりを挟む「あ、これ美味しい。ピスタチオのアイス、初めて食べたけど、私、この味、好きー」
「じゃあ、全部涼香にあげる。食べていいよ」
「えっ? そっ、そういう意味で言ったんじゃないの。ひと口で充分堪能したから、もういい。あとは奏人が食べてっ」
美味しいって奏人に連れられて入ったカフェで、奏人が食後のデザートに選んだピスタチオのアイス。ちょっとだけ味見したくて、ひと口もらったら、すごく美味しかった。
でも私には、さつま芋のベイクドチーズケーキがあるもん。「遠慮しなくてもいいのに」なんて微笑んでる奏人に、アイスの器をググッと押し返した。
「それにしても、このカフェ、素敵ね。道沿いなのに静かだし、空気もいいし。あずさお姉さんがそこの公園によく来てるって話は聞いてたけど、ここのことは聞いてなかったわぁ」
私たちがいるテラス席から通りを隔てた向かい側は、都内でも有名な大きな公園。道沿いに植えられた木々の緑が、残暑の陽射しに煌めいている。
道沿いって言っても裏通りになるから人通りは少なくて、テラス席でもゆったりと過ごせるの。
このカフェを奏人に紹介してくれたのは、私のボランティア仲間で奏人のバイト先の先輩。ふたりにとって共通のお知り合い、あずさお姉さんだ。
「あずささんも最近見つけたって言ってたよ。だからじゃないかな」
「そうなんだ。何にしても教えてもらえてラッキーだったね。ランチもすごく美味しかったもの」
ほうれん草とイワシのラザニア、それからハーブミンチと水菜のパスタ。鴨のピッツァ。奏人とシェアして食べたランチは、どれも本当に美味しくて大満足。
途中、鴨のピッツァを私の口にアーンさせたがる人さえいなければ、もっと快適に食事できたんだけど……これは口には出せないわ。
あ、そういえば食事繋がりで思い出したけど。待ち合わせした大時計で奏人が読んでた数学書。『幾何学《きかがく》を美味しくいただくための前菜』。あれ、武田くんから奏人への今年の誕プレの品だったらしい。
奏人ってば、『面白いから何度も読み返してるんだ。アイツにしては、なかなか良いチョイスだよ』って、ニコニコしてた。無表情男子、どこ行ったの? って聞きたくなるくらいのキラキラの笑顔で。
むむむ、武田くんめ。七夕から二ヶ月も経つのに、こんなに奏人のハートをがっちり掴んでるなんて羨ま……違った、ちょっと悔しい。私だって、すごく頑張ってレジンのキーホルダー作ったのに。
これは、来年の誕プレは、もっと気合い入れなくちゃってことよねっ。
ん? 待って? 来年どころか、今年中にクリスマスがあるじゃない。それに、年が明けたらバレンタインも!
よ、よし。私、頑張る。頑張って、武田くんに勝つわ。
そのためには、武田くんがどんな贈り物をするのか、リサーチしなくちゃ。あと、奏人のマイブームもね。マーケティングリサーチは、基本中の基本だもん。
まずは、敵を知ることからよ。『彼《か》を知り己《おのれ》を知れば百戦殆うからず』って、兵法書の『孫子《そんし》』にも書いてあるもんね。
うん。私、負けない。これは、絶対に負けられない戦いだわ。
奏人の彼女として……!
「涼香? ケーキ、そんなに一度に頬張ったら苦しくない? 大丈夫?」
「へ? らいじょーぶ。何のもんらいもないから気にしないれ?」
「……わかった」
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