2 / 6
中庭にて
しおりを挟む部活に行く前の武田慎吾くんを、中庭に呼び出すことに成功した。
サラサラの茶髪に、整った顔立ち。でも冷たい印象なんか全然なくて、やや垂れ気味の目は、いつも人懐っこい笑顔をたたえてる。明るくて優しい、バスケ部の人気者だ。
でも、彼女は居ない。もちろん、リサーチ済だもんね。頑張って告白して、今度こそOKもらうんだぁ。
「武田くん、好きです! 私とつき合ってください!」
「……あー。俺を呼び出したの、花村ちゃんだったのかぁ。でも、わりぃ! 俺、君とはつき合えないよ」
「そんなっ! お試しでもいいの。それで駄目なら諦めるから!」
「いや、もうすぐ大会あるし。ケガとか、マジで困るし……」
「ケガ?」
「花村ちゃん、すげぇ可愛いし。正直、俺、気持ちグラグラ揺れまくりなんだけどさ。でも無理っ。君だけは対象外なんだよ。ごめんな。ほんと、ごめん!」
ぎゅっと目を瞑りながら深々と頭を下げられ、困惑でいっぱい。
「ええっ? 可愛いって思ってくれてるなら、つき合ってくれてもいいじゃない。お試しでいいんだから!」
「勘弁してくれよぅ。俺、試合に出たいんだよ」
困りきった様子で小さく呟く相手の言うことが、よくわからない。
こんなの、納得出来るわけない。
「わけわかんない。ケガとか、試合に出たいとか。それ、私とつき合うのと何の関係があるの? 私、武田くんのこと、真剣に好きなのよ? ちゃんと答えてくれなきゃ諦めらんない!」
「うーん、なら言うけどさぁ。花村ちゃん、中学の時に痴漢を片手で投げ飛ばしたことあったろ?」
「え? なんで、そのこと知って……」
「そのエピソード、校内で知らないヤツはいないくらい有名だよ。んで、男子の間で共有してる警告文があってさ。『花村ましろは、見た目は超可愛いけど、力加減のわからない“怪力マウンテン女子”だから要注意』っていうのなんだけど」
「ま、まう……」
何? 何を言われたの?
怪力? まうんてん? マウンテンって、もしかして……まさかの……。
ゴ、ゴリ……ゴリ、ラ?
「花村ちゃんに投げ飛ばされた痴漢、全身打撲に腰椎骨折、手首の粉砕骨折だったらしいじゃん? だから、花村とつき合ったら身体がいくつあっても足りないって噂が、男子連中の間では有名なんだよ」
ぼうっとした視界の中で、武田くんの喉がゴクリと動いたのを見た。
「もし、もしもさ! 俺たちがめでたくつき合ったとしてさ! ……そ、その! 俺たちが深い関係になった時のことを想像しただけで、すっげ怖ぇーんだよ! 俺の大事なあの部分とかを、もしも握り潰され……あわわ! とっ、とにかく、おつき合いは勘弁してくださいぃぃっ!」
武田くんが早口で何かいっぱい喋ってるけど、何のことを言ってるのかよく理解出来ない。
「じゃあ、俺、部活だから、これで失礼しまっす! ほんと、ごめん。申し訳ない! 心から謝ります。ごめんなーっ!」
あれ? 武田くん、走って行っちゃった。
えーと。今、何て言われたんだっけ?
……あ、そうだ。怪力マウンテン女だ。怪力……マウンテン……ゴ、ゴリ……。
「……ふっ、ううっ……うぅっ」
ひ、酷いよ。
「うっ……ふ、ぅ……さやかぁ」
胸が痛い。
否応なく込み上げてくる熱いもので、喉の奥が苦しい。
「さやかぁ」
滲んだ視界に、大好きな親友の優しい笑みだけが浮かび上がってくる。
さやか……さやか、さやか!
「さやかっ……!」
涙を拭わずに、そのまま走り出した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
花霞にたゆたう君に
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】
◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆
風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。
願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission
【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる