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第三章

告白【1】

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「宇佐美くん」
 黒絹の髪に手を伸ばす。
「宇佐美くん、聞いて?」
 ざっと音を立てた強風の名残をそっと直しつつ、声をかける。
「嘘じゃない。歌鈴に紹介した後に話したこと、忘れてないし、バレンタインに言ったことも嘘じゃない」
 私より身長が高いのに私より頭が小さいなんて不公平だ、なんて、この場では憚られる不満を内心で漏らしながら、もつれた髪を整えてあげる。さっき、力任せに掻き乱してたから、手櫛では限界があるんだけど。
 宇佐美くんは何も言わない。ぺたんっと切り株に腰かけ、じっとこうべを垂れて、私にされるがままだ。

「あなたに言われたことに『ありがとう』って御礼を言ったのも、ちゃんと覚えてる。でも……でもね? お正月のあれって……告白、だったの?」
「え……」
 これ、言いにくい。聞きにくい。
「私、『好き』って言われてない。言われたのは、『あんたのことは、わりと気に入ってる』って言葉だった」
 記憶に間違いはないから、言いにくい。
「だから、気軽に御礼を言った。それで交際してることになってるとは、思いも寄らなくて」
「いや、ちょっと待っ……」
「でも、ちゃんと確認してたら良かったのよね。気に入ってくれてる度合いについて」
「や、だから待っ……」
「あの時の宇佐美くん、様子が変だとは感じてたのに。そうしたら……」
「ストップ! ちょい黙れ! 話が噛み合ってない!」
「え?」
 右手が掴まれた。同時に話もさえぎられる。そういえば、無意識のうちに後輩の髪をずっと撫でていたんだと、それも同時に気づいた。
 そして、何が噛み合ってないんだろう。

「最後まで聞いてないのか?」
 最後?
「俺、言ったろ? 『あんたのことは、わりと気に入ってる』の後!」
「後?」
 え?
「ちゃんと言った。小さく、だけど……『割合で言えば、すげぇ好き』って」
 なんて返せばいいんだろう。
 そんなの、聞こえてないって言えばいい?
 だって、その時の宇佐美くんは本当に声が小さくて、『わりと気に入ってる』発言もようやく聞き取れる程度の小声だった。
 しかも、その発言の後は口を手で覆って横を向いてしまったから、表情すら窺いづらい状態で。手のひらで隠した告白が私まで届く確率はほぼゼロじゃない?
 バス停に向かう道すがらの出来事だったから、車の走行音も邪魔だったし。
「ありがと。『すげぇ好き』、ちゃんと届いたわよ。今」
「おっ、おせーんだよっ」
 まぁ、でも、余計なことを言う必要はない。


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