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第二章
プレゼント【1】
しおりを挟む「——これ、やる」
「え?」
「卒業祝い、だ」
待ち合わせ場所だった弓道場の裏手に到着するなり、ぐいっと差し出されたものは、宇佐美くん本人の言によれば、卒業祝いの品。
「あ……ありがとう」
綺麗にラッピングされた小ぶりのブーケは、とても良い薫りだ。このお花は……。
「スイートピー?」
「うん。花言葉がさ、ぴったりだって店員が言うから」
「知ってる。旅立ち、でしょ?」
スイートピーの花言葉は、『旅立ち』。昔、桜子お姉さんが大学の卒業式でもらったんだって見せてくれたから知ってる。
「嬉しい。ありがとう、宇佐美くん」
「いや……あ、まぁ、いい。あんたが嬉しいなら、それでいい」
何か言いたげだったけれど、それを飲み込んだように見えた宇佐美くんは、足元にある切り株の椅子に勢いよく腰かけた。
弓道場の裏手に切り株を利用した椅子がいくつもあるなんて、知らなかった。
ここに来る道筋に梅花が並び立っていたこともだけど、六年間も通ってた校舎なのに。何でも知っているつもりでいたけど、そんなことはないんだと突きつけられている。
私は本当に無知だ。だから、二年も後輩の宇佐美くんに頼りなく思われるんだろう。これでも一応、生徒会の副会長を立派に務め上げた実績があるんだけど。
「あー、ところでさ。これからのこと、なんだけど」
同じように切り株の椅子に腰かけ、小さな溜息を飲み込んだ私の斜向かいで、宇佐美くんが視線だけをこちらに向ける。顔は横向きのまま。
「何?」
これから、って?
「あんた、もう卒業じゃん?」
「そうね」
「それで、医学部に進むじゃん? 医学部のキャンパス、結構遠いだろ?」
「うん、そうね」
四月から通う祥徳大学の医学部は、埼玉県寄りのキャンパス。自宅から通学するにはかなり距離があるから、お母さんが大学の近隣で部屋を借りてくれた。
でも、それが何なんだろう。宇佐美くんに関係は……。
「そしたらさ。これから、どこで会う?」
「え?」
何? どこで、って?
「どこで……会う? 誰と誰、が?」
「はあああぁっ?」
「え……」
「なんだ、今の! ふざけてんのか? 誰と誰が、なんて、この流れで聞き返す? フツー、聞き返すっ? あんた、視力いいんだろ? 周り見てみろ。その上で聞き返せよ。あああ、腹立つ! ふざけんな!」
それまで横顔だけを見せていた相手が、正面からこちらに向き直ったかと思ったら、マシンガン並みの罵声が飛んできた。
小動物を思わせる可愛い系の後輩が、ぷくっとしたアヒル口から吐き出すのは、見た目とは真逆の言葉遣い。特に、私相手の時は容赦がない。
「あの、宇佐美くん? もしかして、だけど。もしかして、さっきのあれ。あれは、私に尋ねたの?」
「気づくのが遅い! 圧倒的に認識力が低い! それで医者になれんの?」
もしかしたら間違ってるかもしれないと思いつつ尋ねた問いへの返答も、食い気味の鋭いものだった。でも——。
「合ってたのね。私に聞いてたんだ」
質問したことは合ってたようだ。
「で、宇佐美くんと私を対象にした質問だってことはわかったけど。どうして、『どこで会う』って問いになるの?」
一番聞きたかったことを口にした途端、宇佐美くんの表情が一変した。それまで思いっきりエキサイトしてたのに、一気にそれが消えた。いわゆる、無。
無言。無音。無表情。
ぽかんと丸く口を開けたままだけど、整った顔立ちだから、〝無〟が余計に際立つ。
そのまま数十秒。虚無の時間は容赦なく続いて、私に自分の失言を自覚させた後、目の前の後輩は頭を抱えた。特大の溜息つきで。
「だよなぁ……うん、そうなるよなぁ」
綺麗な黒髪に指を突っ込んで唸ってる。
「そうくるよなぁ。いや、予測してたよ? そういうヤツだってことは、俺、重々承知してんだよ。けどさぁ、今日までの二年半、誰よりも傍にいた異性に、その質問はないんじゃね? さすがにヘコむわ。萎える。落ち込むっ」
「宇佐美くん? 髪……髪の毛、そんなにしたら、もつれ……」
「あんた、わかってんの? 俺たち、カレカノだぞ?」
「え……」
ぐしゃぐしゃに髪を掻きむしってるから止めようと伸ばした手が掴まれ、直後に何かを聞かれた。
それは溜息混じりであり、同時に、鋭く熱いものが込められた言葉。
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