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秋祭りの夜 #11
しおりを挟む「よし。ここから駅前の通りに出る道と、参道に向かう道を手分けして探すぞ」
「それなら、僕は参道のほうに向かおう」
「おう。なら俺は駅前方面に行く」
「待て。もし君が見つけた場合、ここに電話してほしい。すぐに車で迎えに行くから」
踵を返した俺の腕を掴んだ十束が、携帯番号が記された名刺を差し出してきた。
「お前が見つけた場合は?」
受け取りながら、十束の良心を試す言葉を放つと、ムッとした低い声が返ってくる。
「君の番号は?」
もう一枚、差し出された名刺に俺の番号を書いて、今度こそ走り出す。
初琉、どこに行った? 何があったんだ。いきなり居なくなったりしたら、心配するだろっ。
いつも澄ましかえった顔つきの十束が、髪を振り乱して汗だくで探してるんだぞ?
ま、俺も全く同じ有り様だけどな!
初琉の笑顔を思い浮かべながら、暗い路地も見逃すことなく目線を伸ばし、一度も止まらず走り続けた。
「何だ? あれ」
駅前通りに出てすぐ、異変に気づいた。派手な看板で有名なカフェの前に不自然な人だかりが出来ている。
瞬間、『まさか』という嫌な予感が浮かんだが、打ち消しながら走り寄った。
「どないしたんや?」
「女の子がいきなり倒れてっ」
「救急車、呼んで! 早く!」
「すみません! 通してください!」
人波が押し合う場所から聞こえてきた数人の声に、慌てて喧騒の中心に飛び込む。
「……っ……初琉!」
ぐるりと人が取り囲む中央に、探し求めていた姿を見つけた。
ひと目で、失神したとわかる状態。カフェの女性店員に支えられて横たわる小さな姿は、顔面蒼白だ。
「初琉っ!」
駆け寄って、色を失ったその頬に手を伸ばす。
「……んで、こんなことに……」
あまりに冷たい肌の感触に、指先が震える。が、ちゃんと呼吸をしていることを確認して、少しだけ息をついた。
「お知り合いの方ですか?」
「あ、はい」
「良かった。救急車を呼んだんやけど、ひとりで乗せるのは可哀想な気がしてたから」
カフェの店名が入ったシャツを着ている年配の女性が、ほっとしたような笑みを向けてきた。
「ありがとうございます。はぐれてしまって、探してたんです。あの、一体どういう状況でこんなことに?」
十束に連絡を入れるべきだとわかっていたが、初琉がこうなった理由をまず知りたい。初琉の身体を支える役目を代わりながら、女性店員に問いかけた。
「うーん、私もはっきりしたことはわからんのやけど……」
曖昧な前置きで始まった女性店員の話――――カフェの店頭でお祭り客用にドリンクを販売していると、目の前をふらふらと覚束ない足取りで歩いていく初琉が目に入った。
気になりながらもお客の対応をしていたら男の怒鳴り声が聞こえてきて、見れば、初琉がその男にぶつかったらしく、『謝れ!』と怒鳴りつけられている。俯いたまま謝罪したらしい初琉に苛ついた男が初琉の肩を掴んだ途端、いきなり倒れてしまった。という内容だった。
「……その、相手の男は?」
どいつだ?
怒りをそのままに、周囲を鋭く見回す。
「もう逃げてしまったわ。たぶん、びっくりしたんやと思う。私が店頭販売を店長に任せて走り寄ったら、この子、鼻血出してたんよ」
「えっ、鼻血っ?」
「女の子やし。そのままにしとくのは可哀想やから、すぐに拭いたけど」
エプロンで拭いてくれたと仕草で教えてくれた女性に頭を下げて謝意を告げ、もう一度、初琉の頬を撫でた。
初琉……初琉! 起きろ。目、開けてくれ。
同じ言葉を繰り返し念じる俺の耳に、救急車のサイレンが切れ切れに届いてきた。
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