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秋祭りの夜 #6
しおりを挟む「ねぇねぇ! 宮城くんの泊まってるお家ってぇ、古民家みたいな感じー?」
「……いや、普通の住宅だよ」
飯田とたまちゃんの手前、出来るだけ穏やかに会話をせねば。
「あ、そうなのぉ? 合掌造りとか、囲炉裏とかじゃないの? なぁんだ。田舎の家って興味あるからお邪魔してみるのもいいなと思ってたのにー」
ふざけんな。つか、たまちゃんと同じ学部ってことは、お前も菫華学園だろうが。合掌造りがどういうものかも知らんヤツが、有名女子大の生徒を名乗ってていいんかい! あと、無駄に語尾を伸ばすな。
「悪いけど、研究のためにお世話になってるお宅だからね。俺の友だちの飯田でも、勝手に呼ぶことは出来ないよ」
しかし、俺も大人だ。わざわざ『俺の』をつけた意味がコイツにわかるとは思えないが、一切の感情を隠して遠回しに断っておく。
「そうなのぉ? でもでもっ、突撃お宅訪問! とかなら許してもらえるんじゃないかしら?
……耐えろ、俺。あと一時間弱の辛抱だ。
「――おい、宮城。ナビの画面に、あと十五分で到着と出てるんだ。この辺で合ってるか?」
「どうだろう? 俺もこっちでは車を使わないからな。ナビ通りのルートで頼む」
「うん、わかった。なら、見覚えのあるところを通ったら教えてくれ」
「あぁ、悪いな」
奈良では電車と徒歩のみの移動だからな。正直、よくわからん。
それよりも、ずっと喋り続けてる隣の女が、いよいよ身体を密着させてきた。繋がれそうになった手はさり気なく離したが、腕に絡んだ手はそのままだ。が、あと少しの我慢――。
「あら? あれは、なぁに?」
……あ?
「わぁ、綺麗! 今日はお祭りなのねっ」
あぁ……そうみたいだな。
車窓の向こうに、たくさんの祭礼用提灯が見える。幾つも連なったそれが、闇の中で煌々と辺りを照らしているさまは、確かに見事だ。
「ねぇ、たまちゃん! あれ、近くで見たくない? 田舎のお祭り、ちょっと覗いてみようよぉ!」
祭りの提灯が見えるのは、俺の座席側の窓。さらに俺に身体を寄せて外の光景を見ていた女が、とんでもない提案をしてきた。
「うん……私も、ちょっと興味ある、かも」
「あー。じゃあ……車、止める? パーキング探すか。いいか? 宮城」
普段とことん控えめな彼女に遠慮がちに言われてしまえば、飯田も叶えてやりたくなるものだよな。
「あぁ」
ここまで送ってもらったんだ。少しくらいなら、つき合ってもいい。ベタベタされ続けの車内から降りて、気分転換もしたいしな。
「飲み物でも買うか?」
「そうだな」
先に車を降りた女性陣の後ろをついて歩きながら、まばらに見える屋台に、飯田とともに視線を伸ばした。同時に、祭り見物の人波と屋台の隙間に、一服出来そうな場所も探す。
今日、秋祭りだったのか。初琉は今頃……。
「わっ、御神輿も出てるよぉ! ねぇ、飯田くん! たまちゃんと写真撮ってぇ!」
初琉を想う思考は、ぶち壊された。たまちゃんと腕を組んで手を振ってくる女の甲高い叫びで。
おい、飯田を何だと思ってる。スマホ持ってんだろ。自撮りしとけ、自撮り!
「お前、マジで心広すぎだろ。何だ、アレは! いくら彼女の友だちだからって、わがままし放題じゃねーか!」
女の言葉に、即座に愛用のカメラを取りに戻りかけた飯田を捕まえ、きつく言葉を放った。ちょっとは怒れよという気持ちを込めて。
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