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秋祭りの夜 #5

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「……さてさてー? これは、どういうことですか? 説明してください、飯田くん」

「えっ? えーと……あれ? あは、あははっ」

「笑い事じゃねぇぞ、お前」

 何、笑って誤魔化そうとしてんだ。

「ねぇねぇ! 男子ふたりで何の内緒話ぃ? レナも混ざりたぁーい!」

 うるせぇぞ。お前に聞かせらんねぇ話なんだよっ。

 なんで、男ふたりが仲良く肩寄せ合う羽目になってんのか。お前が! そこに居るからだ!

 二日にわたって行われた石川教授の講演会。初日の昨日は、飯田と大阪市内のビジネスホテルに泊まった。

 そして、飯田が島根から大阪に来ることを知った飯田の彼女が、『会いたい』と日にちを合わせて関西まで来ていることを、そこで聞かされたんだ。

 飯田の彼女のたまちゃんは、慎ましく控えめ。東京から来るには来たが、彼氏の邪魔にならないようにと、講演会が終わる水曜日に待ち合わせを希望してきたらしい。それまで自分は友だちと楽しんでるから、と。

 性格の良い飯田にぴったりの、本当にいい子だ。

 その友だちが、甘ったれた口調で自己主張する、この派手な女でなければ,もっと褒めたのに。

「てか、飯田くーん。早く車に乗せてほしいなっ。大事な彼女のたまちゃんが突っ立ったまんまだよぉ? 荷物だって重いのにぃ」

 重いっつって、さりげなく自分の荷物をアピールしてんじゃねぇよ。つか、地面に置いてるキャリーケースのどこが重いんだ。身体をくねらせながらゴロゴロ動かすな。鬱陶しい!

「……チッ」

「あー、宮城? 悪い。俺、こんなことになると思ってなくて」

 あからさまな俺の舌打ちに飯田が謝ってきたが、仕方ない。

「別にいい。俺は送ってもらう側だからな。ほら、早く彼女を呼んでやれよ」

 「すまん」と言い残した飯田が、彼女のたまちゃんのもとに駆け寄っていった。

 昨日、神戸観光をした彼女たちは、今夜は奈良のオーベルジュに宿をとっているらしい。飯田も同じところに泊まって、明日出雲に戻る段取りだ。

 で、そのオーベルジュまでのルートが俺の帰り道とかぶってたから、飯田が借りたレンタカーに同乗させてもらって待ち合わせ場所に一緒に来てみれば――。

 くだんの友だちが、とんでもなく面倒くさいヤツだった、というわけだ。



「宮城くぅん、おひさしぶりぃ!」

 顔を合わせるなり、過剰に再会を喜ばれたが……いつ会った? 全っ然、覚えがねぇ。


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