上 下
4 / 68

追慕 #4

しおりを挟む


「み、宮城くん?」

「あ、私たち。その……」

 初めて見せた俺の本当の顔に、女たちは戸惑いながらも笑顔でしつこく手を伸ばしてくる。相当、自分に自信があるのか。だからこそ、鈍感なのか。

「あのさぁ。俺、君たちに話があるんだけど」

 一瞬で、切り替える。完璧な笑顔を張りつけ、化粧バッチリで派手な身なりのふたりに向き直った。

 声色までをよそ行きに変えた俺に、男連中の顔つきが引きつったのも目の端で確認。が、無視だ。

 お前らには悪ぃけど、もう止めねぇよ。限界なんだ。

「宮城くん?」

「何かしら?」

 期待を込めて身体を寄せてきた相手に、笑顔とともに告げる。

「俺さ、君たちと知り合いだったかな?」

「え?」
「え?」

「顔も名前も覚えてない相手に馴れ馴れしく纏わりつかれてもさー、迷惑なだけなんだよ」

 目を見開いて口をパクパクし始めた女どもに効果絶大の流し目をくれてやってから、その場にいる全員の顔を見回す。

「それに――」

 絶妙な溜めを作った後、口角を引き上げ、ゆっくりと続けた。

「それに俺、もう、嫁さんが居るんだよね。だから、こういうの無理。俺に触っていいのは、俺が惚れてる『たったひとり』だけだ」







『ちょっと! 私が! いつ! あんたの嫁さんになったんよ! ふざけんといて!』

「えー、ふざけてないぞー? いたってマジ。本気中の本気だ」

 経緯を端折って『嫁さん』宣言をしたことだけを初琉はるに報告したら、返ってきたのは予想通りの喚き声。

 けど、電話の向こうのその表情はきっと――。

「俺は、いつでも本気だよ? お前にだけは」

『……っ。な、何言うてんの? それが、ふざけてるって言うんよ!』

 俺の好きな、真っ赤な恥じらい顔のはずだ。

 目線をキョロキョロとさまよわせ、片手で顔をあおいでる様子までが浮かんでくる。

「ふっ、可愛いな」

 可愛い。

『かっ、可愛いって……何、言っ……今は、そんな話してな……』

「会いたい」

『……っ』

 こうして、少しでも声を聞いてしまったら。

 お前の表情かおを、息遣いを感じながら思い浮かべてしまったら、激情が動く。

「会いたい。顔が見たい。お前に触れながら、声を聞きたい」

零央れお……』

「俺の腕の中で、名前を呼んでほしい」

 こんな電話越しじゃなくて、お前をじかに感じたい。

『ねぇ、どうしたん? 何か、あったの?』

「何も……ただ、会いたいだけだ」

 熱を、息遣いを。温かく、柔らかな感触を。

 お前が纏う鮮やかな“色”を、全身で感じたいだけなんだ。

 お前の全てを受けとめ、未来を誓ったあの日に思いを馳せるだけじゃ、足りない。

 もどかしくも甘い疼きに満ちた、あの日々。お前と過ごした、短くも濃厚な二つの季節は、とても愛おしいけれど。

 お前自身の存在感に比べたら、全然足りないんだよ。

 初琉……俺の、初琉……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

処理中です...