重ね積もれる、もみぢ葉の

冴月希衣@商業BL販売中

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重ね積もれる、もみぢ葉の

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「一緒に紅葉を眺めたり、美しい風景の中でたくさん話したり。こうして綺麗な空気を吸いながら出湯いでゆに浸かったり。ふたりでともに楽しみたいと計画していたことがいっぱいあったのに。お前ときたら、私が提案する全てを素っ気なく断るものだから、ひどく寂しいのだぞ! 指折り数えて待ちかねて、この日を楽しみにしていたのは私だけか?」
 あ……。
「もしや、今も嫌々、付き合っているのか? うちの鞍馬の別邸ではなく、お前のところの別邸に誘ってくれたから、お前も私と同じ気持ちなのだと喜んでいたのだが」
「申し訳、ありません」
 零れた謝罪の声は、震えてしまっていた。呑気そのものの様子で従者と出湯いでゆを楽しんでおられた建殿の、思ってもみなかった心の内を聞かされて。
 まさか、私と同じように、ふたりで過ごす今日を楽しみにしてくださっていたとは。

「あの、違います。信じていただけないかもしれませんが、決して、嫌々お付き合いしているわけではありません」
「おぉ、それは本当か?」
「はい。出湯いでゆにお付き合いせず、足湯のみにしていましたのは、先日の風邪が長引いたことで家の者に心配をかけてしまったからで。素っ気なくしたつもりはないのです」
 私らしくないことをしている。言い訳に必死だ。本当は、建殿と従者の少年の仲の良さが面白くなくて、せっかくのお誘いを断り、ふたりから離れて拗ねていたというのに。
「良かった。無理強いではなかったか。嬉しいぞ。ならば、この疑問にも答えてくれ。お前、なぜ今日は髭をつけているのだ。付け髭はやめたはずでは? あの日の私の忠告を忘れてしまったのかと、そのことも寂しく思っていたぞ」
「あ、これ、ですか。えー、この付け髭は、ですね……」
 驚愕が、私を口ごもらせる。今の今まで触れてはこなかった付け髭姿を寂しく思われていたとは。私の素っ気なさを寂しいと言われたことに加えて、驚きは割り増しだ。

「大した理由ではないのです。大津の別邸に滞在するにあたり、現地では髭姿が無難なのではと家人から助言を受けまして」
「助言?」
「はい。見知った土地とはいえ、何があるかわからない。素顔を隠しておくに越したことはないと言われたのです」
 筆頭女房の安芸あきは本当に心配性だ。私は女のような容貌だが、れっきとした男。何もあるわけはないし、よしんばあったとしても腕に覚えはあるのだ。数人の賊など簡単に撃退できる。
 が、付け髭をすることで余計な揉め事が回避できるのなら。建殿と過ごす時間に邪魔が入る可能性が減るのならと、予防策のための付け髭だった。
 そう、万全を期していたはずが、いざ当日になってみれば、当の想い人は可愛らしい従者と常にぴったり、仲良くはしゃいでいるという有様だったのだ。拗ねたくもなる。


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