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伍
鳴弦に、愛の言霊の閃く 【十二】
しおりを挟む「ふふっ。嫌々かぁ。それでも嬉しいよ。何せ今回は、自分でもがっかりするくらい、情けない有り様だったからなぁ」
「あ、いえ……そのようなことは……」
どうしても素直になれない私の憎まれ口を笑って受け入れられたから、少々焦った。
情けなくなどない。私を灰炎の火炎から守ってくださったのは、あなたなのに。
「光成。今だからこそ、正直に言おう」
けれど、笑みをおさめた真剣な声音が続いて聞こえてくるものだから、黙して聞く体勢をとった。
「私はな、あの陰陽生《おんみょうせい》の少年と本気で張り合っていたのだ。あの少年の頭を撫でながら私にはきつい言葉を吐くお前の態度にやさぐれ、悔しさのあまり、やけくそで勝手に妖退治に乗り出した」
「え……」
「堪らなく、口惜しかったのだ。分別も理性も失わせるほどに。お前は私のことは突き飛ばして罵声を浴びせるのに、あの少年には慈愛溢れる笑みを向けるから。私のほうがお前のことをわかっているし、大切に思っているのに! と。平たく言えば、悋気《りんき》だ」
「りっ、悋気っ?」
そそっ、それは! もしや、真守殿と仲良くする私に妬いていた、と? まさか、そんな!
「『私の光成なのに!』そう思ったら、止められなかった。妖退治の手柄をあげることしか考えられなかった。私は、お前が好きだから……とてもとても、好きだから。私だけを見てほしかったのだ」
「……っ!」
この人は、今、何を口にした?
私は、何を言われた?
「たけ、る……どの」
「光成っ」
その名をあえかに紡いだ私に与えられたのは、一度離れたはずの痩身から伸びてきた長い腕。
寸分の隙間もなく、再び身体が密着した。
どうなっている? 何もわからない。
わかるのは、私の背に回された大きな手の感触が、とても温かいということだけ。
「あー、光成?」
「……はい」
「なぜ、何も言わないのだ? 今の私の告白に対して。例えば、男同士でそのような感情を抱くなど気持ちが悪いとか、不愉快だとか。もしくは、疎ましいとか。いつものお前なら、私の身体はとっくに罵声とともに塗籠《ぬりごめ》の壁に激突してるはずなのに、なぜ、いつまでも私の腕の中におさまっていてくれる? それが、とても不思議なのだが」
あぁ……これは、現実なのだ。
建殿の身体の熱を感じながらも、どこか意識がはっきりしていなかったが、今、ようやく実感できた。
これは現実。建殿が私を『好き』だとおっしゃってくださっている。
ならば、私も素直になれば良いのだろうか。
今まで、心の内とは反対のことばかり口にしてきた私だが、ありのままの言葉で――。
「言っても良いのですか? では、お望みのようですから、はっきり申し上げます。男同士で、相手から『好き』だと告げられるなど、鳥肌が立ちそうなほど不快ですし、虫唾が走ります」
「うっ! そんな、はっきり拒絶せずとも! わ、私だって、今しかないと思って、ものすごい勇気を振り絞って告げたのにっ!」
「あなた以外の相手に言われた場合、ですが」
「えっ? そそっ、それは! 光成、今の言葉は、まことか? まことなのかぁっ?」
「ふふっ」
暗闇で何も見えずとも、相手の顔色が蒼白から喜色満面になったことは容易に想像がつく。
この人は、“こういう人”なのだ。
「建殿。私には、もう二年も前から、心に住み着いて離れないお方がいるのです。ずっと、ずっと。ただひとり、その方だけを想い続けてきました」
「え? ちょっ、待って?
え? え? その言葉と、さっきの言葉が全然繋がらないのだが? 二年も前から……だと? おい、待て! いったい誰のことだあぁ!」
あーあ、なぜ自分のことだと思わないのだろう。どこまで鈍感なのか。
私の好きな人は、全く。
「聞きたいですか? それは――」
良すぎるほどに人が良すぎて、開けっぴろげで呑気。間抜けな失敗を何度も繰り返す、迂闊な人。
そして、誰よりも真っ直ぐで実直な、心の綺麗な人。
「あなた、です。建殿――――大好きですよ」
言霊《ことだま》は、最強の呪《しゅ》となる。
建殿? 今、互いに伝え合ったこの言霊は、私たちを縛る甘い鎖。
二度と離れることなく、ともに歩んでまいりましょう。
もちろん、未来永劫、よそ見は許しませんっ。
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