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武田慎吾の災難
chapter【4−1】
しおりを挟む「それでさ、忘れた防具を取りに道場に寄ってたから遅刻したんだけどさ。俺が道場を出ようとしたら、秋田センセーの奥さんが……」
——コンコン
「失礼しまーす」
奏人に、少しでも許してもらいたい武田。聞かれてもいないのに、遅刻の理由から何から全て、洗いざらい白状するつもりでペラペラと話していた。その時、病室の扉が勢いよく横に開く。
「武田くん、大丈夫? もう、お腹痛くないの?」
「あ、秋田。大丈夫だよ。心配、サンキュ」
室内に入ってきたのはチカと成親。ふわふわの茶髪をチョンと傾げて病状を尋ねてくれるチカに、武田の目元が緩む。
「おじい様に聞いたよ? 武田くん、うちのおばあ様が今日の差し入れ用に作ったフルーツサンドを試食してくれたって。おばあ様に頼まれて、断りきれずに食べたせいで、お腹痛くなっちゃったんでしょ? ほんと、ごめんね?」
「や、違う。俺が、ちょっとだから大丈夫って勝手に判断して食ったんだ。悪いのは俺なんだよ。だから、秋田は謝んないでくれ。なっ?」
「そうだぞ、正親。今回のこれは、全面的に慎吾が悪い。なぜなら、大事な大会に使う防具を道場に忘れて帰り、当日の朝ギリギリに道場に取りに寄ったりしなければ、フルーツサンドを食うことはなかったんだからな。――なぁ、そうだろ? 慎吾」
眉を下げて謝るチカに、慌てて両手を振りながら自分のほうに非があると力説した武田に、死角から成親による冷たい声が浴びせられた。恫喝のような最後の呼びかけに、武田の肩は、びくんっと大きく震える。
こ、こえぇ。監督、こえぇ! 怖すぎて監督の顔、全然見らんねぇ。監督、道場主の秋田センセーよりも容赦ねぇからな。
ど、ど、どうしよう。ぜってー、なんかペナルティーが……想像するだに恐ろしい、ペナルティーが、きっと……!
「まぁ、慎吾への特別練習メニューは今夜ひと晩じっくりと練ってから、明日通達してやる。楽しみにしてろ」
「ひぃっ」
うっかり見上げて、成親の絶対零度の眼差しと死刑宣告を同時に体感してしまった武田が、震え上がった。
チカと同じ色のふわふわの茶髪、よく似通った美しい面差しを持つ成親だが、その前髪の隙間から覗く瞳は、苛烈で冷酷そのもの。
しかも、本当の死刑宣告は明日まで待たなければ通達されず。ひと晩中、どんな過酷なトレーニングが課されるのかと怯えなければいけないという、ホラーのようなオプションつきだ。
「すす、すんません。すんませ……」
謝罪の言葉が、ガタガタと震える武田の口から零れる。いくら成親に謝っても、過酷なトレーニング内容に変更はないとわかっていたが。
「武田」
その武田の肩に、奏人の手が乗った。
「大丈夫だ。俺も一緒につき合ってやる」
「え?」
土岐! 好きっ!
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