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武田慎吾の災難
chapter【2−2】
しおりを挟む「さて、遅刻するかと思われた慎吾も、無事! 合流出来た。これで、ひと安心だな」
無事、を強調した監督の冷たい視線が武田に突き刺さってきた。
「すんません! もう二度と遅刻しません!ほんとーに、すんましぇんっ!」
苛烈な気性を持つ監督の、絶対零度の冷たい眼差し。その威力に震え上がった武田が、必死に謝る。
「まぁ、いい。ギリギリだが、間に合ったからな。ところで試合順についてだが、先鋒を変更しようと思う。慎吾を中堅に回し、代わりに――」
「えっ? 俺、先鋒から外されるんすか?」
「お前、ここまで二駅ぶん走ってきたんだろう? 体力をかなり消耗してるじゃないか」
「や! 大丈夫っす! まだまだ体力あり余ってるんで! 是非、俺に先鋒やらせてくださいっ!」
剣道の試合において先鋒を任されることは、監督からの信用と強さの証のようなもの。このチームで先鋒を任されることが多い武田にとって、それを外されるのは、プライドが許さない。
「監督! お願いしまっす! 俺、先鋒で出たいっす!」
いくら、お気楽チャラ男であっても、剣道には真摯に打ち込んでいるのだ。『どうしても先鋒で出たい』と、監督に必死に頼み込んだ。
「本当に大丈夫なんだな?」
「はい! オールオッケー! カンペキ大丈夫っす!」
姿勢良く頭を下げ、頼み込むこと数回。ようやく、監督からの確認の言葉をもらえた武田は、もうひと押しで先鋒の役目を取り戻せるはずと、この中で唯一アシストを頼むことが出来る人物にも頭を下げることにした。
先ほど監督が武田と先鋒を入れ替えると口にしていた、元々は中堅の予定だった相手。
「秋田ぁ、頼むよ。俺に先鋒を譲ってくれ! 頼む。お願い! この通りだ!」
「うーん、別にいいけど……ねぇ、兄さん。チカ、中堅のままでもいいかな?」
「あ? 正親《まさちか》まで、そんなことを……仕方ないな。慎吾。そこまで言うなら、お前に先鋒を任せるぞ?」
「やったぁ! ありがとう、監督! ありがとう、秋田! 俺、めっちゃめちゃ頑張るぜっ」
武田がアシストを期待した幼なじみ、秋田正親は、期待通りの良い仕事をしてくれた。監督は、稽古が絡まなければ、途轍もなく秋田に甘い。
チームの監督は、このメンバー全員が通っている道場の師範代。秋田成親《あきた なりちか》。チカの兄なのだ。
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