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武田慎吾の災難
chapter【2−1】
しおりを挟む「武田。一応、尋ねておく。今日の遅刻の理由は、いったい何だ? お前のふざけた言い訳は聞き飽きたが、二十秒だけなら聞いてやってもいい。言ってみろ」
「と、土岐ぃ、それ、短すぎー。つか、ちょい休ませてくんない? 俺、もう限界」
息を切らした武田が、床に膝をついた。
「へへっ。でもさ、俺ってば、バッチリ間に合ったんじゃね? 遅刻してねぇよな?」
甘えるように相手の顔を見上げて、ニカッと笑う。
「何を言ってる。そんな台詞は、胴着に着替えてから言え」
憎めない表情で笑う武田に、にべもなく返したのは、土岐奏人《とき かなと》。剣道の胴着を身に着けて立っている姿はストイックさが溢れて、すらりと凛々しい。
今日は、剣道の秋季大会当日。武田が奏人と一緒に出場する団体戦の試合開始時刻が、あと少しと迫っていた。
武田慎吾。大事な試合(しかも団体戦)に、もう少しで遅刻をかましてしまうところだったのである。
「おい、武田? 土岐に叱られなかったからって、いつまでも床で休憩してるのは、いただけないな。遅刻ギリギリで皆に気を揉ませたくせに、ダラダラすんな」
「いってぇぇー!」
さっさと立ちなよ、と後ろから武田の尻を思いっきり蹴り上げたのは、幼なじみの高階郁水《たかしな いくみ》。同じ団体戦のメンバーだ。
「痛ぇじゃねぇかよ、高階!」
尾てい骨をしたたかに蹴り上げられた痛みで、武田の目尻に、じわりと涙が浮かんだ。
「ほう? お前、そんな大声で喚く元気が残ってたのか?」
「ん? 今の声、なんだよ。俺に噛みつく元気があるんだな? へぇ、面白い」
「ひっ!」
奏人と高階が、ひやりと冷たい同じ空気を纏って、武田の顔を覗き込んできた。
ヤ、ヤバい! この雰囲気ヤベぇ。逃げなくちゃ。
「あー、えーと、えーとっ。お、俺ってば、そろそろ着替えてきちゃおうかなぁ?」
「あ? 『そろそろ』だと? なんだ、そののんびり具合は」
「ふん。『そろそろ』だなんて、ずいぶんと悠長じゃないか」
「ひぃっ! すっ、素早く! 迅速にぃ! 武田慎吾、光の速さで着替えてまいりまっするぅーっ! 急げ、俺っ!」
安定のドSと鬼畜コンビ。奏人と高階に鋭い目線で覗き込まれ、一目散に着替えに走った(逃げ出した)武田だった。
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