上 下
3 / 9
武田慎吾の災難

chapter【2−1】

しおりを挟む



「武田。一応、尋ねておく。今日の遅刻の理由は、いったい何だ? お前のふざけた言い訳は聞き飽きたが、二十秒だけなら聞いてやってもいい。言ってみろ」
「と、土岐ぃ、それ、短すぎー。つか、ちょい休ませてくんない? 俺、もう限界」
 息を切らした武田が、床に膝をついた。
「へへっ。でもさ、俺ってば、バッチリ間に合ったんじゃね? 遅刻してねぇよな?」
 甘えるように相手の顔を見上げて、ニカッと笑う。
「何を言ってる。そんな台詞は、胴着に着替えてから言え」
 憎めない表情で笑う武田に、にべもなく返したのは、土岐奏人《とき かなと》。剣道の胴着を身に着けて立っている姿はストイックさが溢れて、すらりと凛々しい。
 今日は、剣道の秋季大会当日。武田が奏人と一緒に出場する団体戦の試合開始時刻が、あと少しと迫っていた。
 武田慎吾。大事な試合(しかも団体戦)に、もう少しで遅刻をかましてしまうところだったのである。

「おい、武田? 土岐に叱られなかったからって、いつまでも床で休憩してるのは、いただけないな。遅刻ギリギリで皆に気を揉ませたくせに、ダラダラすんな」
「いってぇぇー!」
 さっさと立ちなよ、と後ろから武田の尻を思いっきり蹴り上げたのは、幼なじみの高階郁水《たかしな いくみ》。同じ団体戦のメンバーだ。
「痛ぇじゃねぇかよ、高階!」
 尾てい骨をしたたかに蹴り上げられた痛みで、武田の目尻に、じわりと涙が浮かんだ。
「ほう? お前、そんな大声で喚く元気が残ってたのか?」
「ん? 今の声、なんだよ。俺に噛みつく元気があるんだな? へぇ、面白い」
「ひっ!」
 奏人と高階が、ひやりと冷たい同じ空気を纏って、武田の顔を覗き込んできた。
 ヤ、ヤバい! この雰囲気ヤベぇ。逃げなくちゃ。
「あー、えーと、えーとっ。お、俺ってば、そろそろ着替えてきちゃおうかなぁ?」
「あ? 『そろそろ』だと? なんだ、そののんびり具合は」
「ふん。『そろそろ』だなんて、ずいぶんと悠長じゃないか」
「ひぃっ! すっ、素早く! 迅速にぃ! 武田慎吾、光の速さで着替えてまいりまっするぅーっ! 急げ、俺っ!」
 安定のドSと鬼畜コンビ。奏人と高階に鋭い目線で覗き込まれ、一目散に着替えに走った(逃げ出した)武田だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミナミ商店は今日も無許可で営業中

池堂海都
青春
その学校では、許可の無いビジネスは禁止されていた。 だが禁制品を求める声は強く。禁制品を売るため規制当局の目を盗んで商売をする人々がいた。 これはそんな商売人の話。 毎日更新します。

恋ぞつもりて

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【恋ぞつもりて】いや増す恋心。加速し続ける想いの終着点は、どこ? 瀧川ひかる——高校三年生。女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショート。ハスキーボイスの気さくな美人さん。相手を選ばずに言いたいことは言うのに、さっぱりした性格なので敵を作らない。中等科生の頃からファンクラブが存在する皆の人気者。 麻生凪——高校一年生。男子バレー部。ポジションはリベロ。撮り鉄。やや垂れ気味の大きな目のワンコ系。小学一年生の夏から、ずっとひかるが好き。ひーちゃん至上主義。十年、告白し続けても弟扱いでまだ彼氏になれないが、全然諦めていない。 「ひーちゃん、おはよう。今日も最高に美人さんだねぇ。大好きだよー」 「はいはい。朝イチのお世辞、サンキュ」 「お世辞じゃないよ。ひーちゃんが美人さんなのは、ほんとだし。俺がひーちゃんを好きなのも本心っ。その証拠に、毎日、告ってるだろ?」 「はい、黙れー。茶番は終わりー」 女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショートのハスキーボイス美人が二つ年下男子からずっと告白され続けるお話。 『どうして、その子なの?』のサブキャラ、瀧川ひかるがヒロインです。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

創作中

渋谷かな
青春
これはドリームコンテスト用に部活モノの青春モノです。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これは第2期を書いている時に思いついた発想の転換です。 女子高生の2人のショートコントでどうぞ。 「ねえねえ! ライブ、行かない?」 「いいね! 誰のコンサート? ジャニーズ? 乃木坂48?」 「違うわよ。」 「じゃあ、誰のライブよ?」 「ライト文芸部よ。略して、ライブ。被ると申し訳ないから、!?を付けといたわ。」 「なんじゃそりゃ!?」 「どうもありがとうございました。」 こちら、元々の「軽い!? 文芸部」時代のあらすじ。 「きれい!」 「カワイイ!」 「いい匂いがする!」 「美味しそう!」  一人の少女が歩いていた。周りの人間が見とれるほどの存在感だった。 「あの人は誰!?」 「あの人は、カロヤカさんよ。」 「カロヤカさん?」  彼女の名前は、軽井沢花。絶対無敵、才色兼備、文武両道、信号無視、絶対無二の存在である神である。人は彼女のことを、カロヤカさんと呼ぶ。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これからは、1つのタイトル「ライブ!? 軽い文学部の話」で統一しよう。

星鬼夜空~僕の夏休み~

konntaminn
青春
ぼくの夏休みに起きた、不思議な物語。必然の物語 ただ抗うことができる運命でもあった。 だから僕は頑張る。 理想の物語のために。 そんな物語 出てくる登場人物の性格が変わることがあります。初心者なので、ご勘弁を

夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。

みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』 俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。 しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。 「私、、オバケだもん!」 出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。 信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。 ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】』の続編。 【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】 女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。 付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。 恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission. 表紙:香咲まりさん作画

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...